「生まれて8年目」

 

7月8日 雨のち晴れ

朝起きて、リビングに行くと、お母さんが朝御飯の準備をしていた。
ボクに気付いたお母さんは「もうできるから、早く顔洗ってきちゃって」と言った。
ボクは洗面所に行って、顔を洗った。
鏡に写った自分の顔を見て、気合いを入れる。
「今日は、カルボさんにしっかりと謝るんだ」
そう心の中で呟く。
リビングに戻ると、朝食の準備を終えたお母さんが椅子に座っていた。
ボクも席に着く。
そして、驚いた。
いつもの3倍くらいの料理が作ってあった。
いつもはパンと目玉焼きくらいなのに、今日はパンと目玉焼きに加え、焼いたウィンナー、ツナサラダ、コーンポタージュ、ヨーグルト、バナナだ。
すごい。
朝御飯のフルコースだ。
でも、料理が苦手なお母さんがこんなに作ったの?
料理を前に黙っているボクにお母さんは言った。
「腹が減っては謝罪はできぬってね。一杯食べなさい」
お母さんは微笑んでいた。
「え?」
ボクは声に出したけれど、お母さんはそれに答えなかった。
もしかして、ボクがカルボさんに水風船爆弾を当ててしまったことを知っているのかな?
いや、そんな訳ない。
だって、ボクはお母さんに話してない。
でも、知ってるとしか思えないな。
ボクは思いきってお母さんに聞いてみた。
「ねぇ、どうして‥‥」
「いいから早く食べて学校に行きなさい」
途中で遮られてしまった。
そのあとは特別な事はなく、いつも通りの朝だった。
家を出るときの、「行ってきます」と「行ってらっしゃい」もいつも通りだった。

 

学校に着くと、ボクはカルボさんを探した。
すぐに謝りたかったからだ。
でも、カルボさんはまだいなかった。
教室の入り口を見ながらカルボさんが入ってくるのを待っていたけど、一向に来ない。
そして、そのまま先生がやってきてしまった。
先生が出席を取り始める。
カルボさんの名前を呼ぶとき、カルボさんが休むことを伝える。
それを聞いたボクはとてもショックだった。
もしかして、ボクのせいで?
風邪でも引いたのかな。
なんてことだ!

 

だから、ボクは今日、ずっと元気が出なかった。
育ち盛りなのに、給食のお代わりもしなかった。
学校が終わっても、すぐに家に帰りたくなかったから、雨でぬかるんだ校庭の隅にある鉄棒で逆上がりの練習を繰り返した。
地面を蹴る時、靴に張り付いた湿った校庭の砂利が一緒に舞い上がって顔にかかった。
ボクはそれをゆっくり拭って、なんだか泣きそうになるのを我慢したんだ。

そのことは、さっき、チュリオさんに打ち明けた。
二人の秘密だ。

 

 

「生まれて8年目」-8-
2013.7.15




生まれて8年目 8
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