『ノリたい‼︎』

 

1.若造

僕は、冴えない人生を送っていると言っても過言ではない。
まずは、彼女がいない。
というか、いたことがない。
そして、大した趣味もない。
その上、名前を言っても伝わらない四流大学を出て、名前を言っても伝わらない会社に入って3年が過ぎた。
朝起きては会社に行き、業務をこなしては家に帰る。
帰れば適当に晩御飯を食べて、適当にテレビを観て、発泡酒を飲みながら流行りの芸人の芸で笑ったりする。
そうしていれば、夜も更ける。
狭い風呂に入って、眠るだけ。
手に入るのは、満足したことの無い額の給料と過ぎて行く日々。
悲しいことはないが、僕はこれが「冴えない人生」だと分かっているつもりだ。
そりゃ、こんな生活からは抜け出して、もっと煌びやかな毎日を送りたい。
女の子と遊んだり、そのまま付き合うことになったり、何か打ち込める趣味を見つけたり、休みの日はそれで忙しくて、彼女に怒られたり、お金を思い通りに使ったり、それでも尚、あり余るお金を更に使ったり。
僕は、そんな人生が送りたいのだ。

というようなことを、数少ない友人に話した。
そしたら彼は言った。
「あれだよ、お前はさ、もう少し調子に乗ったら良いんじゃない?」
「調子に乗る?」
「そうだよ。今まで一度も乗ったことないだろ?調子に」
僕は今までの人生を思い出さなくても分かる。
確かに調子に乗ったことなど、一度もない。
調子に乗るとは、一体どんなことなのだろうか。
やったことないから、分からない。
でも、なんだか楽しそうだ。
少なくとも僕の送る毎日よりは。
そんな僕の考えを見透かしているのか、彼は続けた。
「人生一度きりなんだからさ、一度くらい調子に乗ってもいいんじゃないか?」
乗れるものなら是非乗りたい。
だけど、それって性格的な問題なのではないのだろうか。
つまり、僕にはどうやって調子に乗ったらいいのか分からない。
「調子に乗るって言ってもどうしたらいいんだ?」
僕は彼に聞いてみる。
「まずは免許だな」
「め、免許?」
「そりゃそうだろ、お前。調子の無免許運転は危ないぜ?まずは調子に乗るための免許を取らなくちゃ」
「調子に乗るための免許?…それって、どこで取れるの?」
「あれだろ。教習所だろ、まずは。免許関係は、とりあえず教習所だろ」
「教習所って、車の?」
「他にどこがあるのさ?お前、車の免許は持ってんの?」
「持ってない」
「じゃあ、丁度良いじゃねぇか!免許取ってさ、がんがん乗り回そうぜ、調子」
友人のその言葉に、僕は、もう想像していた。
調子を乗り回して、冴えない人生とおさらばグッドバイしている自分の姿を。

 

つづく

『のりたい‼︎』-1-

2015.1.3


オールカラー 普通免許<まるで本試験! >問題集

ノリたい‼︎ 1
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