『ノリたい‼︎』

 

2 教官

冬でなければ、「調子に乗るための調子免許」とかいう冗談味たっぷりの話題で溢れた車の窓を開けて気を紛らわすのだが、そういうわけにもいかない。
寒いから。
とりあえず、俺は助手席で話す若造の言葉に頷いて言う。
できるだけ柔らかい口調で。
「そうなんですねぇ」と。
この仕事をしていると、訳の分からないことを話し始めるヤツに出くわすことも珍しくない。
そういうやつには、この「そうなんですねぇ」が有効だ。
肯定でも否定でもないそれは、話を聞いているアピールをしながら、相手に話の全権を委ねてしまえる、とても便利な言葉だ。
そうやって、適当に受け流しながら、若造の冗談にも付き合ってやる。
「でも、ここで取得できるのは運転免許だけですけどね」
愛想笑いも付けてやる。
なぜなら匿名アンケートにて「愛想が悪い」と書かれてしまうことがあるからだ。
そしたら、ビックリ。
マジかよ。
若造は急ブレーキを踏みやがった。
車に合わせて俺の体は前につんのめる。
すぐにバックミラーを確認。
後続車はいないようだ。
良かった。
「え!?」
若造が大げさに言う。
こっちの台詞だ。
「ここじゃ、運転免許しか取れないんですか!?」
「そうですね、自動車教習所ですからね…」
「マジっすか!?え、どーしよ…」
若造は心底ショックそうに言っている。
後ろからクラクションが聞こえた。
後続車が来たようだ。
「発進させて!」
俺は珍しく大きな声を上げた。
そしたら若造、急発進。
俺はその勢いで背中をシートにぶつける。
運転中、若造は繰り返し「マジかよぉ…」と言ってはため息を吐いた。
本気なのか、こいつ。
気持ち悪いやつに当たってしまったもんだ。
まぁ、いいや。
この次の時間は赤いコートの娘だから。
その時間の事ばかり考えるとしよう。
赤いコートの娘はわざわざ指名料を払って俺を指名してくる。
なぜなのかは分からない。
俺を何らかの詐欺にでも引っ掛けて騙そうとしているのかもしれない。
なぜなら赤いコートの娘は若い。
さらに可愛い。
長さを切り揃えたショートカット。
そこに乗っけている小さい濃紺のベレー帽。
あのベレー帽に意味はあるのか。
俺には分からない。
24。
そうだ、24歳だ
今隣に座っている若造と同じ年だった気がする。
そこでふと若造を見る。
車は赤信号に停まっている。
若造はハンドルに突っ伏して、「このままじゃ調子に乗れない」と呟く。
なんなんだよこいつ。
早くこの時間が終わって欲しい。
信号が青になる。
「青だよ」と言おうとしたが、その頃には若造は顔を上げてスムーズな発進。
俺はまた赤いコートの娘のことを考える。
なぜ、「赤いコートの娘」と呼ぶのか。
そんなの簡単だ。
なぜ冬を冬と呼ぶのかということに似ている。
寒いから冬と呼ばれる。
そして、彼女はいつも赤いコートを着ている。
つまり、赤いコートの娘と呼ぶしかない。
それだけの話だ。

 

つづく

『ノリたい‼︎』-2-


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↓前回までの話↓

test003

ノリたい!! 2
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