『ノリたい!!』

 

5 若造

僕はうなだれていた。
教習所の自販機横に設置されたソファに座って、うなだれていた。
うなだれるという行為は、僕の人生においてありふれたものである。
だから、特別なことではないのだけれど、心中は穏やかではなかった。
「調子免許が、ここでは取れない」
その事実を知ってしまったからだ。
今日の担当教官にその事を告げられたあと、諦めのつかない僕は、教習所の受付けにも確認した。
「あのー、調子に乗るための免許って取得可能ですよね?」
僕のその言葉を聞いた受付のお姉さんは、笑顔のまま沈黙して、早い瞬きを数回したあとで「そのような免許は、当校では取得出来ませんが…」と言った。
絶望だ。
冴えない人生から脱出できると思っていたのに!
調子を乗りこなして、華やかな毎日を送るはずだったのに!
うなだれるしかなかった。
冴えない人生に「うなだれる」という行為はつきものだ。
今まで何度うなだれてきたことか。
お陰で、今ではだいぶ上手にうなだれることができるようになった。
だがしかし僕は知っている。
うなだれたって、何も解決しないことを知っているのだ。
でも、そんなことを知っていてもくその役にも立たない。
その先が分からないのだ。
うなだれたあと、どうしたらいいのか、さっぱり良いアイデアが思いつかない。
それが僕の人生を「冴えない」ものにしている理由の大きなところである。
だからとりあえず、うなだれた上でため息でも吐いてみる。
ちょいと大げさに吐いてみる。
そしたら「どーしたんだ?」と声がした。
びっくりして、声の方を向くと、男が立っていた。
なんとも賢そうな、黒縁のメガネを掛けた男だ。
少女漫画に出てきそうな爽やかさを纏う、スラリと細い出で立ちの好青年。
直感で思ってしまう。
こいつと僕は生きている世界が違う、と。
僕が勝手に劣等感を抱いていると、「ため息なんか吐いて、悩みがあるなら、聞くよ」と彼は爽やかに言葉を続けた。
なんとなく、話したくなった。
僕がうなだれている理由を。
なぜだろうか。
赤の他人に話しをできるほどの社交性を僕は持ち合わせてはいない。
でも、なぜか僕は彼に話したくなった。
というか、話し始めていた。
「実は、その、調子に乗るための免許を…」

 

つづく

『ノリたい!!』-5-


1回でうかる!普通免許<ポイント攻略>問題集


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ノリたい!! 5
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