『ノリたい!!』

 

7 むすめ

彼の事ばかり見ているわけではありません。
しっかりと運転もしています。
クラッチ、アクセル、ブレーキ。
品行方正な運転をして彼に気に入ってもらわなければなりませんから!
なので、スマートに方向指示器を点滅させます。
左折です。
後方確認をする時に、隣に座る彼の横顔をチラリと見ます。
彼も補助ミラーで後方を確認しています。
それはまるで同じ未来を見ているようで、なんだか照れくさくなります。
それにしても、私は運転がなかなかに上手かもしれません。
今の左折は実にスムーズでした。
隣の彼も黙っていられなかったようです。
「しっかり後方確認してますし、良いですね。運転、好きですか?」
けれど、私は運転中です。
彼の方を見るわけにもいかないので、とっておきの笑顔で「えぇ」と言って、ハンドルをさばきます。
「そうですかぁ。免許取れたらドライブとかたくさん行きそうですね」
そのタイミングで赤信号です。
ゆったりとブレーキペダルを踏み込みます。
車が完全に停止してから、ここぞとばかりに彼の方を見て言います。
「そうです。好きな人を隣に乗せてお出かけをするのが小さな夢なんです」
笑顔もセットで言います。
彼は少し言葉をなくした後で、「いいですね。それはちっとも小さい夢なんかじゃないですよ。素敵な夢です」と言いました。
私は「ありがとうございます」と微笑みます。
信号が青に変わったので、スムーズな半クラッチを披露しました。
そして、ギアをセカンドに入れようとした時です。
彼が言ったのです。
「その、好きな人って言うのは、今、お付き合いしている人なんですか?…あ、立ち入ったことを聞いてしまいました。すみません」
どうやら私は成功したようです。
彼の心のギアを入れることにです。
でも、まだまだこれからです。
私は車のギアをセカンドに入れたあとで言うのです。
「お付き合いしている人はいませんよ」と、言うのです。

 

つづく

『ノリたい!!』-7-


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ノリたい!! 7
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