あるアパートでの一件

 

3

203号室の住人

外で、バタバタと音がする。
ドアスコープを覗いてみると、先輩が管理人にタイツを被せているところだった。
作戦は一先ず成功みたい。
先輩の部屋のドアが閉まるのを確認してから、部屋を出る。
戸締まりを忘れずに!

階段を降りて、私の部屋のちょうど真下の部屋、103号室のドアをノックする。
一回目は応答がなく、もう一度ノックした。
返事なし。
不安になって、泣きそうになる。
その時、ガチャリと鍵の開く音がして、彼がドアから顔を出した。
ひどい寝癖とパジャマ姿で彼は立っていた。
「あれ?もう始まってんの?」
まさに寝ぼけたことを言っている。
「始まってますよ!あたしは、交番に行くので、早く上に行って、先輩を助けてあげてください!」
彼は「あぁー。行くかぁ。」と悠長な返事をして、そのままの姿で部屋を出た。
「そ、そのまま行くんですか?」
「お、そうだな。歯磨きをしてから出よう。」
そう言って、また部屋の中へ入っていった。
大丈夫かな…。
心配になる。
彼は、今、上で格闘している先輩と大学の同級生で、私と同じバイト先で働いている。
のんびりした彼に少しの不安を覚えたけれど、とにかく私は交番へ急がなきゃ!

 

走って交番に行くと、二人の警察官がいた。
「どうしたんだね!」
息を切らしてる私を見て、警察官も慌てたようだった。
「あの、覗きの犯人を捕まえたんだす!」
一息に話したせいで、噛んでしまった。
「なに!?本当か!」
警察官が食い付いた。作戦通り!
「そいつは、忍の格好をしていたか!」
忍?
なんのことだろう。
「‥‥いいえ。普通にポロシャツと短パンです。」
「あー。じゃあ、駄目だわ。」
今まで一言も話さなかった、若い方の警察官が言った。
「え?」
私は、言われた意味が分からなかった。
「今さぁ、忍の連中を追っていて忙しいわけよ。ちょっと、そちらの現場には行けないねぇ。」
「何でですか!覗きですよ!?捕まえてください!」
「お前、そうやって俺たちの捜査を邪魔する気だな!‥‥はっ!まさか、お前も忍の一味か!捕まえてやる!!」
警官が手錠を取り出した。
え?
私は何かの間違えかと思ったけれど、二人は私に近寄ってくる。
目が本気だ。
あの目は、本当に手錠を掛けようとしている。
冗談でしょ?
怖くなった私は走って逃げた。
背中の方で「おいこら、待て!」と叫び声が聞こえた。
なんなのよ!

 

アパートまで全力失踪した。
後ろを振り返ってみたが、警察官は追って来ないようだった。
あの警官は一体、なんなの?
意味が分からないわ。
あー、それにしてもどーしよう。
このままじゃ、作戦が台無しだ。
一先ず、先輩の部屋に行こう。

 

恐る恐る、201号室のドアを開けようと思ったら、ドアが開いてバイト先の彼が出てきた。
私の顔を見ると、なにやら気まずい顔をした。
「あれ、警察官は?」
「来てもらえませんでした。どーしよう。」
「なんだよそれ。酷い扱いだな。じゃあ、とりあえず、もうしばらく、しごいてもらうか。」
部屋の中から、男の泣き声が聞こえる。
管理人だ。
ちょっと、可哀想な気持ちになる。
「それはそうと、どちらへ?」
私は彼に尋ねた。
「あ?あぁー、あの、野暮用!」
「こんな大事な時にですか?」
「そうさ。時は金なり、虫は家なりだ!では!」
そういうと、サクサクと階段を降りて行ってしまった。
なんのことだか。

 

私は先輩の部屋に入り、先輩に挨拶。
管理人は先輩のベッドに縛られて、口に沢山のグミを含んでモゴモゴ言っている。
先輩が熊の形のグミを袋ごと私に差し出した。
私はコクリと頷いて受けとると、「鬼は外ー!」と叫びながら管理人にグミを投げつけた。
床やベッドに当たって、てんてんと跳ねる熊たちは可愛かった。

 

 

「あるアパートでの一件」-3-
2013.7.22


美天使シリーズ★コスプレ★警察官シリーズ。彼氏を逮捕しちゃう!(笑)  a173

あるアパートでの一件 3