あるアパートでの一件

 

15

管理人

一番驚いたのは、誰よりも俺に違いない。
神様は、こんな時にも面白い展開を望んでいるのか。
両手が自由になっていた。
縄脱けの術ができてしまったのだ。
幼少からの修行の賜物であろうか。
しかし、未だに危機的状況は回避されていない。
口の中には熊の形をしたグミが詰まってるし、足と胴体がベッドに縛られている。
それをはずしている間に、傘でやられるに決まっている。
折角自由になった手も、縛られている演技をしているだけだ。
どうしたものか。
チャンスは来ないか。
そういう時、神様は役立たずだが、仏様は俺を見捨てなかった。
ドS女が席を立ったのだ。
「ちょっと、トイレ。管理人、見張っててね。暇だったら、これでも投げてて。」
そう言うと、203号室のお嬢ちゃんにグミの袋を渡した。
チャンスは今しか無い。

 

ガチャリ。
トイレのカギが閉まる。
ほんの少し時間を開けて、素早く起き上がる。
203号室のお嬢ちゃんは一瞬何が起こったのか分からない様子だったが、すぐに叫び声を上げて、熊のグミを思いきり投げてくる。
しかし、ここでひるむ訳にはいかない。
まずは、胴体の紐を外す。
グミが飛んでくる。
足の紐を外す。
なんか視界が悪いと思ったら、タイツを被さられていたんだった。
鼻まで被ってた、タイツを脱ぎ取る。
ガチャガチャガチャと慌てた様子で、トイレのドアが勢いよく開く。
立ち上がり、口の中の熊共を噴き出す。
ドS女がやって来た。
俺は、両手を挙げて「俺は無実だー!!」と叫ぶ。
そしてその時、203号室のお嬢ちゃんがこちらへ勢いよく向かってきて、派手に倒された。
両手で思い切り突き飛ばされたのだ。
ベッドに背中を打った俺は衝撃で一瞬、息が出来なくなる。
再び、ベッドと背中がこんにちは。
踏ん張ったつもりが、お嬢ちゃんの力に負けた。
忍者を目指し、日々、修行を重ねていた俺が負けたのだ。
なんなんだよぉ、この女!
プライドがひどく傷ついた俺はもう、半泣きも良いところだった。

 

 

「あるアパートでの一件」-15-
2013.7.22


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あるアパートでの一件 15