あるアパートでの1件

 

16

203号室の住人

先立つものは、己自身!
草食男子と呼ばれる輩が増えている昨今、男子諸君は宛にならない!
自分の身は自分で守らなくちゃ!
そのためには、体力を付けなければいけない!
そういう考えを抱いていた私は、働きたかったケーキ屋さんのバイトを諦めて、引っ越し屋さんのバイトを選んだのだった。
最初は地獄だった。
何度も辞めようと思った。
でもその度に、広い青空の下、広い草原で草を食べる男子諸君を想像しては、己を奮い立たせた。
そして、その苦労が今日、実を結んだのです!

 

先輩がトイレに立ったあと、「私もトイレに行きたいな。」などと思っていると、ベッドに縛り付けていたはずの管理人がムクッと起き上がり、あっという間に、拘束具を外して自由の身になった。
私は、熊の形をしたグミで応戦!
しかし、全く意味がなかった。
何かの映画の、ドラキュラに十字架をかざしても意味がなかった時の主人公の気持ちが分かった。
管理人は立ち上がり、じりじりとこちらへ歩いてきた。
どうしようと思った時、トイレから先輩が出てきた。
さすがの先輩も、とても焦った顔をしていた。
管理人は両手を斜め上に広げて「俺は無実だー!!」と叫んだ。
まずい。
ここからなりふり構わず行動されても困る。
そこで私は動いたのです。
考えるより先に動いたのです。

 

管理人を力一杯に押し倒すと、結構簡単に倒れた。
意外とすごい音が鳴って、彼の顔を見ると、目を見開いて、苦しそうな顔をしていた。
私は、すぐに彼から離れた。
縛るものを探したけど、見付からない!
先輩が、傘を持ってこっちに来る。
それに気付いた管理人は上半身だけ起こして身構えた。
先輩は、管理人の頭目掛けて、真っ直ぐ傘を降り下ろした。
「真剣白羽取り!!」
管理人は大声で叫んだが、声の大きさは関係なく、傘は頭に直撃した。
ちょうどその時、ドタドタと騒がしく廊下を登る音がしたかと思うと、ドアが乱暴に開けられて、そこにはさっき私の依頼に応じなかった警察官二人が立っていた。
そして、開口一番「今、白羽取りを使ったヤツは、どこの忍だ!!」と叫んだ。

 

 

「あるアパートでの一件」-16-
2013.7.22


警察官

あるアパートでの一件 16