あるアパートでの一件
18
管理人
俺は管理人の最大の武器である、合鍵を手にして、いとこの部屋に侵入していた。
「あの野郎。本当に俺を犯人に仕立てあげようとしてたな…。」
舌打ちをしながら呟く。
今日、201号室の女に捕まってから起こった出来事を思い出して、その原因がアイツだと思うとふつふつと怒りが込み上げてくる。
警官から、いとこがドタバタと逃げ出した時に、俺も素早く逃げ出せて良かった。
最悪な日に、終止符は打たれたのだ。
何はともあれ、俺が忍者泥棒であることがバレなくて良かった。
そして、今後もバレることがないように、いとこの部屋に侵入したわけだ。
いとこの部屋には、多数の虫籠が積まれていた。
中を見ると小さいゴキブリがいた。
いや、鳴き声が聞こえる。
もう一度見ると、それはコオロギであった。
何のためにこんなにコオロギを飼ってるんだ。
おや?
俺は気付いた。
最近、アパートの周りにコオロギが多数いるのは、これのせいか?
ここから逃げ出したコオロギ共か!
そのせいで俺は覗きにも間違われたと言うのに!
あの野郎…。
俺の、いとこに対する怒りは益々大きくなった。
ゆっくりしてる暇はない。
俺にも予定があるのだ。
いとこの部屋の押し入れを開けて、まだ一度も使ってない忍者服を3セット仕舞い込む。
テレビの横に置かれたカラーボックスには、何気なく手裏剣を置いておく。
それは、袋に入っており、まだ封を切ってないものだ。
後々、「指紋が無いから立証できない」とならないようにだ。
新品なら、指紋が無くて当然だ。
大事なのは、部屋にそれがあったということだ。
その後も部屋に様々な忍者グッズを仕掛けた。
玄関脇の靴置き場には、隠すようにピッキング用品を置く。
本棚には、忍者の参考文献のパイオニアである『伊賀流忍者大全集』を忍ばせる。
完璧だ。
ここに住んでいる住人が忍者でないはずがない。
さて、俺には用事がある。
今日のひどい出来事を慰めて貰わねばならない。
いとこの部屋を出て鍵を掛ける。
ドアの前ですぐに携帯を取りだし、電話を掛ける。
呼び出し音がなる。
その時、二階の廊下を人が歩く気配がした。
呼び出し音よりもそちらに、耳を澄ませると、会話をしていた。
声から察するに、デブと新しい入居者だ。
ここにいることを見られるのは良くない。
俺は、電話を耳に当てたまま、素早くアパートの裏に回って、道に出た。
呼び出し音が止まり、「遅いです。」と聞きなれた声が聴こえる。
「待たせたね、すまない。」
一先ずは、謝る。
それから、一番ご機嫌取りが出来る台詞を言う。
「で、今日はどこの生クリームを食べに行く?」
まだ、もう少し、夕方までには時間がある。
俺の一日は、これからだ。
「あるアパートでの一件」-18-
2013.7.22