恋が上手くいかないのは多々あることさ

 

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上手く撮れなかった桜の写真をLINEで送ってみた。
「全然写ってないですね」とか「これ何の写真ですか?」とか言われそうだから、10枚くらい連続で送ってやった。
ふふふ。
イタズラは楽しい。
どんな返信が来るか楽しみだ。

隣では、高校が同じだった男がすました顔で歩いている。
そのすまし顔が面白い。
なんだか、からかいたくなる。
んー。
どうしようかな。
‥‥そうだ!
「ねぇねぇ、明後日から行く旅行はさ、男だけで行くの?それとも女もいるの?」
「それ、言わなきゃいけないの?」
「いや、言わなくてもいいけど、私は行っちゃダメかな?ちょうど暇だし!」
「え?‥‥無理でしょ。うん。無理無理」
「なんでぇ~。じゃあ、今度一緒に行ってよ!旅行!」
「‥‥そうだね。地球が壊れる前に一度だけ行ってあげてもいいよ」
「何よそれ!てか、そもそも、冗談よ!エイプリルフール!あんたと一緒に旅行なんて行ったら、何されるか分からないし!」
彼は、きっと、恥ずかしいのと怒ってるので、顔を赤くした。
夜道でも分かるくらいに。
「あのなぁ、僕だって、君との旅行なんて嫌だよ!慈悲さ、慈悲!それから、エイプリルフールはとっくに過ぎてるよ!」
「知ってる」
私はその一言で一蹴して、笑った。
笑いながら気付いたのは、彼の私に対する恋心ではなくて、春の夜が冬のそれよりも笑い声を響かせるような気がするということだった。

 

彼と別れて家に着く頃、LINEの返信があった。
ピンぼけした桜の写真10枚への返信だ。
私はそれを見て思わず笑っていた。
彼の変顔写真が10枚以上送られてきたからだ。
こういうところが、良いのだ。
ここでの「良い」は、「好き」とほぼ同意語だということを私だけは知っていた。
だって、私自身のことだから。

 

 

「恋が上手くいかないのは多々あることさ」-4-
2013.4.3


第 1 エイプリルフールのスケッチの古い印刷物 1893

恋が上手くいかないのは多々あることさ 4