恋が上手くいかないのは多々あることさ

 

5

「返信あっただけマシだろ」
友達は慰めの要素ゼロで言った。
まぁ、俺もそう思う。
返ってこない苦痛よりも、返ってきての苦痛の方がまだマシだ。
「それにしても、サークルとバイトが忙しいってのは、本当だろうけど嘘だな」
友達は赤い血が流れているとは思えないくらい、厳しい一言を言った。
そんなこと、知ってる。
あぁ、そうとも、知っている。
問題はこのあとだ。
このあとどうするかだ。
悩むまでもない。
答えはいつだって出てる。
諦めるか、諦めないか。
そのどちらかだ。
こうなるとよく「諦めたらそこで試合終了ですよ」とかタプタプしてないくせにタプタプしたようなセリフを言ってくるヤツがいる。
そもそも、試合なんて始まってもいないし、もっと言えば、コートにだって立たせてもらってない。
そこんとこ、よろしく!!

 

「威勢だけはいいよね、君」
その夜、やけになってバイトをしていたら先輩に言われた。
なんすか?
威勢だけは良いって。
なんすか?
それ。
なんだか、喧嘩腰な気持ちになるけれど、威勢だけは良い俺だ、実際には何もしない。
そもそも、その先輩は女だ。
荒波を立たせたって、良いことはない。
俺は黙って、返却されたDVDの検品をしていた。
「何よ、その顔。もしかして、フラれた?」
彼女はそう言ってケラケラと笑った。
俺は答えた。
嫌味たっぷりに。
「先輩のピンぼけしたなんだか分からない桜の写真のせいですね。あれ、きっと呪いの写真ですよ」
「ほほう。言うね。君の変顔連投には負けるけどね」
「勘弁してくださいよ。付き合ってあげてるんじゃないですか。先輩のお遊びに」
「よしよし、可愛い後輩だよ、本当に。ご褒美にお姉さまがミラノ風ドリアを御馳走しよう」
「先輩、それ、もう飽きました」
そういう仲だ。
どういう仲だ!?と言われても、そういう仲だとしか言えない仲だ。
あるでしょ、そういうの。
これが、ウマが合うっていうことなんだろうなと、この年になって思った。
俺は先輩とバイト終わりに何度かサイゼリアに行ったし、そこで、ミラノ風ドリアを奢ってもらった。

 

で、その夜も、結局サイゼリアに居た。
「ねぇ、本当にフラれたの?あんた」
「フラれたと言うよりも、映画に誘ったのを断られただけですね」
「ダサっ!それ、フラれたも同然でしょ」
「あのね、彼氏のいない先輩に言われたくないですね」
「じゃあ、なってよ。私の彼氏に」
「…じょ、冗談でしょ!先輩の彼氏になったら、体がいくつあっても足りませんよ!」
「だよねぇ。これだから、草食は‥」
ゴニョゴニョ言う先輩を、俺は嫌味っぽく鼻で笑いながらも、映画を断られたという本当に絶望的な現実からなんとか逃れようとしていた。
なんてったって、明日は、ゼミがある。
彼女に会わなければならない。

 

 

「恋が上手くいかないのは多々あることさ」-5-
2013.4.4


メッセージ 陶器 タンブラー あきらめたらそこで試合終了ですよ・・・ 2740-800C

恋が上手くいかないのは多々あることさ 5