自転車を漕いで、とっとと家に帰るんだ。
だけど気持ちはそうじゃない。
帰りたくない。
まだ、この秋の空気を吸ってたい。
所々、薄い雲が広がってる夕空を眺めていたい。
赤信号で止まった時に、ケータイを取り出した。
ずっと眺めていたいその空を、写真に撮ろうとしたけど、心の中にある気持ちを丁寧に込めた仕上がりにはならなかった。
そんなもんは、保存しておく必要がないから、すぐに、消した。
信号は青になって、僕は慌ててケータイをしまって自転車を漕ぎだす。
慌てる必要なんかないのに、なぜ、慌ててしまうのか。
慌てた結果、ケータイを落として壊したらどうするんだろうか。
「青は進め」
そう教え込まれた時点から、きっと、「その時」には慌ててる。

青では必ず進んできた。
「いいよ」って、そう言われれば、ちょっと慌てて進むんだ。
とはいえ、赤で必ず止まるかというとそうでもない。
それなのに、青で止まることはない。
止まってたっていいはずなのに、なぜ、止まらないんだろうか。
青で止まれるやつになりたい。
みんなが進む中、お気に入りの空の写真が撮れるまで進まないやつになりたい。
だけど、そうはいかない。
僕にはいつだって行く場所があるし、いつだって帰る場所もあるから。

青で止まっていたら、今頃どうなっていたんだろうか、と考える頃には、意図的に帰り道から外れた道を走っていた。
少しばかり、いいじゃない。
止まる代わりに道を逸れてもいいじゃない。
そうやって言い訳をして、銀杏の木が沢山並んでいる場所へ向かった。

秋を抱きしめたかった。

そう表現すると、嘘になる。
ただなんとなく、まだギリギリ明るい空の色に、数えようとも思えない数の黄色が浮かぶ様子が見たかっただけだ。
それは、ちっとも抱きしめることにはならない。
ただ、傍観するだけ。
傍観して、通り過ぎるだけだ。
上手い写真もとれやしないし。
綺麗だな。
素晴らしいな。
風情があるな。
そう思うだけで、事が済めば、僕はいつも通りの道へ軌道を修正し、帰るべき場所へ帰る。
毎年そうやってさよならだ。

あと何回、それをするだろうか。
あと何回、それができるだろうか。

「考えるだけ無駄だけど、今この瞬間だけは大切にしたい」と、急に強く思ってしまった。
だから僕は自転車を降りた。
いつもの缶ビールを買って、ベンチに座って飲むことにした。
というよりも、最初からそのつもりで、ここに来たわけなんだけど。

とりあえず、缶を開ける音を合図に、世界が止まればいいのに。

そうやってまた、思ってもいないことを思い付いく。
くそみたいだ。
ビールを飲む。
やっぱり秋は好きだ。
これは多分、本当に思ってる。
と、思うんだけど、どうだろうか。
誰か証明してくれないか。
この気持ちを。

ビールの味はもう「美味い」という事しか分からなくなってるんだ。

 

 

kotoba-asobi


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通り過ぎるだけなのに、