『ノリたい!!』

 

11 教官

所長室に入ると、たわいも無い業務の話から「そろそろ次のステージのことも考えたらどうだ?」と言われる。
またその話かと舌打ちをしたくなる。
赤いコートの娘の教習でふわふわした気持ちが急に軽さを失った。
「お前にはここの所長になってもらわなきゃ困るんだから」
そう言う現所長は俺の親父だ。
俺が黙っていると親父がいつになく真面目な顔で続けた。
「そこでだ。そろそろお前に知っておいてもらいたいことがある」
「知っておいてもらいたいこと?」
「そうだ。実はこの教習学校は、自動車運転免許以外の教習も行っている」
自動車以外の免許?
どういうことだ?
俺のその疑問を見透かしてか親父は言う。
「この世の中の乗り物っていうのは自動車やバイクだけじゃないわけだ。それらの免許をここでは取得することができる」
なんだそれは。
そんな話、聞いたことがない。
当惑する俺を無視して親父は続けた。
「夜に特別学校を開いているのだが、昼間の職員はそのことを知らない。もちろん、お前にも黙っていた。だがそろそろ知ってもいい頃だ。今夜あたり見学に行ってみないか?」
夜の特別学校?
昼間の職員が知らない?
そんなことあるのか。
というか、自動車以外の乗り物ってなんなんだよ。
そもそも何で公にはやっていないんだ。
俺は湧き上がる疑問や感情が多すぎて上手く言葉にすることができなかった。
「色々と思うところがあるとは思うけど、百聞は一見にしかず。とりあえず、今夜は業務が終わっても帰らずに所長室によってくれ」
「いや、ちょっと待ってくれ」
俺はようやくまとまり出した言葉を出そうとしたが親父に遮られた。
「何だ、今夜は予定でもあるのか?」
「いや、そうじゃなくて、」
「じゃあ、決まりだ。そうだな、とりあえず最初は『調子に乗る免許』の教習にでも立ち会ってもらうか」
「え!?」
俺はその言葉を聞いて驚いた。
それって、今日の教習で会ったヘンテコな若造が言っていたやつじゃないか。
調子に乗るための『調子免許』だとかいうやつ。
嘘だろ?
本当にそんなもんあるのか?
その時、所長の机の上の電話が鳴った。
「おっと、とにかく、今日の業務が終わったらまた来てくれ。それから、この事は他言無用だからな」
そう言って、親父は電話に出た。
目で「あとでな!」と言った。
俺は仕方なしに所長室をあとにした。

調子に乗るための免許。
そんなものが実在するのか。
親父のタチの悪い冗談なのだろうか。
でも、とても冗談を言うようには思えない真剣な話具合だった。
だとしても、長年ここに勤めている俺が知らないのもおかしな話だ。
考えているうちに、夜の学校のことを誰かに聞きたくてしょうがなくなった。
親父は他言無用と言っていたけれど、それとなく聞いてみよう。
受付の子がいいだろうか。
すべての教習の受付をする場所だ。
何かしら知っているかもしれない。
次の教習までに時間がないからすぐに受付けに向かった。
そして、手が空いていた子に単刀直入に調子免許を知ってるかと聞いてみる。
そしたら彼女は言った。
「調子免許?聞いたことないですけど。あ、そう言えば…」
彼女は何かを思い出したようだ。
俺は少し身を乗り出す。
「…昼間にもそんなことを聞いてきた若い男の人がいましたよ。それって、うちでやり始めるんですか?」
「え、あ、いいや、なんか、俺もその若い男にそんなことを聞かれたからさ」俺は適当にごまかす。
「あ、そうなんですか。変な人がいますよねぇ」
少し世間話をしてから「ありがと!」とその場をあとにした。
親父の言った通り、昼間の職員は知らないのかも知れない。
とりあえず、今夜、所長室に行ってみるしかないようだ。
それにしても、あの若造、受付けにもしっかりと聞いていたか。
親父の言うことが本当だとするならば、ヤツは夜の学校の情報へ辿り着けたのだろうか。

 

つづく

『ノリたい!!』-11-


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ノリたい!! 11
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