『ノリたい!!』

 

8 教官

ミントの味がするタブレットを一気に7つ程食べてから彼女の教習に臨んだ。
ラッキー7だ。
なんていうゲン担ぎは気にしないけれど、口臭は気になる。
なぜなら車の中は密室で、窓を開けるにはまだ寒い。
そして、隣に座る赤いコートの娘は可愛い。
いい匂いもする。
丁寧に切り揃えられたショートカットが揺れる度、その線の美しさに見入ってしまう。
その度に俺は彼女の運転技術を見定めている振りをした。
なぜ、彼女は俺を指名するのだろうか。
回を追うごとにその謎は深まるばかりだ。
「それにしても、何で私を指名してくれるんですか?」と聞いてもいいが、その後に待っている未来が怖い。
それが原因で指名されなくなっても、残念だ。
彼女は可愛い。
一緒の時間を過ごせるのは悪くない。

彼氏は、いるのだろうか。
その疑問を俺は早くから抱えていた。
どの指にも指輪らしきものを嵌めてはいない。
それだけで、独り身だと判断してしまうのは軽率だが、なんとなく安心していた俺がいる。
安心?
何に安心しているのかは分からないが、きっと俺の中にある「あわよくば精神」が喜んだのだろう。
そして、この教習が終わる頃にはその「あわよくば精神」が歓喜することになる。
彼女の口から「お付き合いしている人はいませんよ」という言葉が飛び出して彼氏がいないことが判明するのだ。
「そうなんですね」と言いながら見た運転席の彼女は、正面を見据えたその顔に仄かな笑顔を滲ませていた。
冬の午後の陽がそんな彼女を照らす。
素敵だ。
見惚れてしまいそうになる。
ギアが…。
心の中のギアが、チェンジする音が聞こえた気がした。
セカンドからサードへ。
鼓動が早くなる。
この時間が永遠に続けばいいのに。
そう思っているとあっという間に教習は終わった。

「ありがとうございました」と言った彼女の笑顔は可愛い。
俺は教習車から離れていく彼女を見送って、事務所に戻った。
今日はいい日だった。
まだ仕事は終わってないが、なんだかやり終えた気になっていた。
赤いコートの娘のことを思い出して、余韻に浸っていると、所長に呼ばれた。
俺はふわふわとした気持ちで、所長室に向かった。

 

つづく

『ノリたい!!』-8-


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↓前回までの話↓

test003

ノリたい!! 8
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