言葉遊び

『僕は赤ん坊である』

 

僕は赤ん坊である。故に、経験が不足している。
しかし、これからぐんぐんと経験を積むのだから心配はない。
僕はいつも周囲を驚かすほどのスピードで経験を積み、成長をしているのだ。
昨日だって、なんとなく両足でバランスをとり、手放しで立ってみたところ、ママは歓喜し、スマートフォンを僕に向けてバシャバシャとシャッターを切った。
その勢いで歩き出そうかと思ったが、そうなれば、ママのことだ、今度は動画を撮ることになるだろう。
僕は、スマートフォンの容量に気を遣い、歩き出すのは先延ばしにすることにした。
それに「一気に手の内を見せるよりも、徐々に披露した方が数度に渡りオトナたちを喜ばせることができるんだよ、君」と、以前、外で出会った2ヶ月ほど先輩の赤ん坊から拝聴したことがある。(彼は男なのに赤いおしゃぶりをしていることを誇っていて少し鼻につくヤツである)
それは、大変に納得のできることなので、僕はそれをしっかりと実行しているのだ。
つまり、お分りだろうか。
僕は容姿は小さいが、心得ているのである。
しかしながら、オトナは心得ていない。それは赤ん坊界では有名な話であるが、先日もオトナが心得ていない故の事案が発生していたのである。

朝と昼の間の頃である。
僕はママと二人で家にいた。
ママはテレビのニュース番組を見ながら、洗濯物を干している。
僕は、「あー」とか「うー」とか言いながらシリコン製のオモチャを口に入れる。
食べ飽きてる物だが、仕方がない。
もっと気の利いたオモチャを僕たちに提案できるほど、オトナは心得ていないのだから。
だが、本題はそれではない。
本題はニュース番組で取り上げられた、とある事由についてだ。
インターネットで【主婦に年収を付けるならいくら?】というアンケートを実施したらしい。
女性の回答で一番多かったのは200万。
男性の回答で一番多かったのは0円。
この回答結果が波紋を呼んでいるというのである。
そして番組内では様々な議論が交わされていたが、男性の最も多い回答である0円はありえないという意見は満場一致であった。
僕もその意見には賛成である。
ママは非常に頑張っている。
僕は赤ん坊の勤めをしっかりと果たす大変なお利口さんであるから、昼も夜も関係なく泣き叫び、ミルクをもらい、おしめを替えてもらうのだ。
そして、その他の時間にママは洗濯や掃除や炊事をこなすのである。
それが無償だというのだから、オトナ達がどれだけ心得ていないのかがよく分かる。
しかし、それも本題ではない。
本題はもう少し先である。
僕はママとパパのどちらが頑張っており、エライのかは、さっぱり分からない。
土俵が違うから比べようがないのである。
だが、パパは一度家を出てしまえば何をしているのか分からず仕舞いであり、たとえ頑張って仕事をしていても、アルバイトと紙一重のような仕事振りかも知れぬ。
しかしながら、上司がいたりするとそれを評価されるから、それはそれで大変である。
その点ママは上司がいないので、ある意味で妥協できると言える。
でも、先刻述べた通り、僕がお利口さん故にパパよりも休みがないのは事実である。
詰まるところ、どちらも大変でどちらも大変ではないのである。
そして、言いたい。
これが本題である。
しっかりと受け止めて頂きたい。

一番、年収をもらいたいのは、僕たち赤ん坊である。

それは、そうだろう。
僕たちは、心得ていないオトナ達には出来ない、無邪気で世界平和をもたらせうる笑顔をばら撒き、不快な事があればわざわざ体力を尽くして泣かなければならず、おしめ替えの時は、恥を忍んで身を委ねるのだ。
極め付けは、寝ている時も最高の寝顔をキープするという至難の技を駆使しながら24時間営業である。
これはどう考えたって、きっちりと年収換算して頂き、支払ってもらわなければ困る。
更に言うなれば、僕たち赤ん坊は、心得ていないオトナ達が創り上げた未来を生きなければならないのである。
これに関しては、「考えすぎると眠れなくなるので考えてはいけないよ、君」と、やはり2ヶ月ほど先輩の赤ん坊より拝聴した。
大変に納得のできることなので、僕はそれをしっかりと実行している。

さて、どうだろうか。
僕たちの年収は一体いくらになるのだろうか。
そもそもこの問題がアンケート対象になっていない時点でおかしいのだ。
オトナはいつもオトナの世界の価値観だけで解決を計ろうとするのである。
故に「赤ん坊に給与だと?」という声が聞こえてきそうである。
その言葉はそのまま送り返そう。
社会で稼ぐパパと育児家事をこなすママに年収換算がされて、なぜ僕たち赤ん坊は置き去りなのか。
皆、その人の立場に立たないと分からないというのに。
勿論、僕だってパパやママの苦労を、身を以て体験したことはないので、ワガママを言わず、お利口に赤ん坊を勤め上げる所存である。
この事については、今度、先輩や後輩と会う時にじっくりと議論したい思う。

一先ず、お腹が空いたので涎と鼻水をダラダラと垂らして泣き叫ぶこととする。

では、これにて失礼。

 

おわり

 

 

kotoba-asobi


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