マリー

 

13

ブサイくんはいつもより早く学校に着いていた。
まだ、カワイちゃんは来ていないようだ。
イケメくんもまだ来ていない。
キレイさんは、すでに教室にいて、ブサイくんとは離れた廊下側の自分の席で本を読んでいた。
ブサイくんは、それを確認してから、窓際の自分の席に着く。
ドキドキしながら鞄に入っているMOMOの消しゴムを取り出した。
そして眺める。
それにはちっとも魅力を感じない。
なぜだろうか。
同じ消しゴムだというのに。
いや、よく見ろ。
その白さとツヤが全然違う。
「マリーはもっと…」
そんなことを思っていると、妙にマリーの事が恋しくなった。
早く、マリーを手にしたい。
ブサイくんはそう思った。

 

最初の授業が始まる少し前に、カワイちゃんが友達と連れ立って、教室に入ってきた。
ブサイくんはすぐにそれに気付く。
カワイちゃんの席はブサイくんの右斜め前だ。
机に鞄を置いたカワイちゃんにブサイくんはすぐに話しかけようとして、「おはよう」の「お」を言ったとき、先生が教室に入ってきてしまった。
すぐに「起立」という号令。
なんということだろうか。
ブサイくんはタイミングを逃した。

 

授業は軽快に進んだ。
依然、ブサイくんはカワイちゃんに話しかけることができなかった。
とてもヤキモキしていたその時、ノートをとっていたカワイちゃんが、ブレザーのポケットから消しゴムを取り出した。
アレは!!!!
消しゴムのカバーがちらりと見える。
手で覆われているせいで見にくいが黒いラインの上に、白字で「MO」の文字が見えた。
間違いない!!!
マリー!!!!
カワイちゃんはそれを、ノートにあてがった。
まさか、使う気なのか!?
ブサイくんは焦った。
カワイちゃんの手に力が入るのが分かった。
ブサイくんの頭の中に、白いツヤツヤの肌を黒く濁らせたマリーが写し出された。
そんな姿でも、そのマリーは微笑んでいる。
ヤメロ。
ヤメロ。
「やめてくれー!!!!」
ブサイくんは発狂しそうだった。
というか、実際に発狂していた。

教室が静まり返った。
カワイちゃんだけでなく、他の生徒もブサイくんを見ている。
イケメくんが「え?」と言って笑った。
ナイスだ。
行動までイケている。
それをきっかけに他の生徒も笑い出す。
先生も「寝ぼけてんのか?」と笑い出す。
なんとなく、ブサイくんも「さーせん」と笑った。
イケメくんのおかげで、ブサイくんの発狂もごまかせた。
ブサイくんが「ははは」と頭をかきながら、ふと見たカワイちゃんも笑っていた。
笑いながら、ノートの文字を消していた。
それを見たブサイくんの髪の毛には、白髪が増えた。
マリーの肌のように真っ白でツヤのある白髪が。

 

 

「マリー」-13-
2013.6.20


CDT 消しゴム PEPH1-012PG

マリー 13
Tagged on: