マリー

 

19

その日は、あの日だった。
イケメくんの誕生バースデイだ。
ブサイくんとカワイちゃん、それから、キレイさんでドッキリサプライズハッピー誕生バースデイを執り行う事になっていた。
場所は、放課後のカラオケボックス。
密室のその場所に男女が4人。
そこで、事件は勃発するのだった。

 

まず、その日の放課後、イケメくんにサプライズパーティーを悟られないために、「テスト勉強しようぜ、しようぜテスト勉強」という誘い文句を使った。
もちろん、誘い出すのはブサイくんの役割だ。
「いいね。どこでするよ?」
「あー。カラオケとかどうよ?個室だし、で、飽きたら歌おうぜ」
「それ、最初から勉強にならんでしょ」
「まぁまぁ、ええやない、そうだとしても」
そんな感じで、ブサイくんの誘い込みは成功。
その頃、カワイちゃんとキレイさんは買い出しに勤しんでいた。
持ち込みOKのカラオケ屋だから、お菓子や飲み物を沢山買った。
もちろん、クラッカーもね。
買い物中にキレイさんが口を開いた。
「そういえば、カワイちゃん、ブサイくんと付き合ってるんだよね?」
「え?‥う、うん」
「どう?順調?」
「まぁまぁ、かな」
「なんかあったら、相談に乗るよ」
「う、うん」
カワイちゃんは曖昧に答えた。
実はすでに悩みがあった。
もちろん、マリーのことである。
あの、ファミレス以来、カワイちゃんはマリーが気になって仕方なかった。
ふとブサイくんを見れば、消しゴムを撫でているのだ。
それは、気になるに決まっている。
だけど、それをどう友達に相談 すればいいか分からなかった。
それは、キレイさんに対しても同じことだった。
「いいわねぇ。私も、告白しようかしら、イケメくんに」
「え!?‥‥本当に!? きっと、上手くいくよ!!」
「そうだといいけれど」
キレイさんはそう言って、目を伏せた。
その横顔は、カワイちゃんでも恋に落ちそうになるくらい綺麗だった。

 

ブサイくんとイケメくんは、勉強をしていた。
カラオケボックスで。
「なんか、静かすぎて逆に落ち着かねぇな!」
イケメくんがそう言って笑った。
ブサイくんは「た、確かに」と言ってから、渇いた喉をオレンジジュースで潤した。
カワイちゃんとキレイさんが予定より遅い。
どうしたものか。
焦る心を落ち着かせるために、机の上に置いてあるマリーを撫でた。
「そういや、お前、カワイちゃんとどうよ?良い感じ?」
イケメくんがブサイくんに聞いたその時である。
部屋の扉が勢いよく開いて、クラッカーが鳴った。
部屋にいた二人はかなり驚いた。
ブサイくんはこの算段を知っていたにも関わらず、心臓が止まりそうになった。
おかげで、マリーを思いきり握ってしまったので、心の中で「強くしてごめんね」と呼び掛けた。

「誕生日、おめでとー!!!!」
カワイちゃんとキレイさんが部屋に入るなりそう叫ぶと、ブサイくんは算段通りに曲を入れて、二人にマイクを渡す。
カワイちゃんとキレイさんがマイクを握ると、イケメくんは「え?マジ?ウソ!!!!すげぇ!ありがとー!!!」と興奮していた。

その間、ずっと、見ていた。
カワイちゃんは、見ていた。
ブサイくんの左手に触れているマリーのことをずっと見ていたのだ。
カワイちゃんとキレイさんが歌う歌が始まってからも、ずっと見ていた。
そして、その時にはすでにカワイちゃんの決心が付いていたのだった。
それは一体何の決心なのか、次の話で明かすとしよう。

 

 

「マリー」-19-
2013.6.26


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マリー 19
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