「マリー」

 

22

それは、放課後だった。
カワイちゃんは一人、教室にいた。
ブサイくんのノートを見るためだった。
その日の授業中、ブサイくんが開かれたノートを見て泣いていたのを見ていたからだ。
「一体何を見て泣いたの?」
そう思うと、いてもたってもいられなかった。
ブサイくんが教科書やノートを教室に置きっ放しにしていることを、カワイちゃんは知っていた。
容易にそれを手にすると、ブサイくんの机の上に広げる。
誰もいない教室はとても静かだけれど、教室の外からは運動部のホイッスルの音や、吹奏楽部の演奏が聴こえてくる。
それらの音を聴きながら、カワイちゃんはブサイくんのノートを捲っていく。
そして、そのページを見つけてしまう。
マリーへの気持ちを綴った言葉を。
それはもう、読んでいるこっちが恥ずかしくなるような、残念な言葉で綴られた詞であった。
残念すぎる故に、ここに掲載するこにとしよう。

 

『マリー』
一体、何がしたいの?
一体、何が欲しいの?
一体、何処に行きたいの?
一体、何が食べたいの?
マリー   僕のマリー

夜には月を見上げて、悲しみに暮れる振りをする
忘れた頃にこっち向いて、「何でもないよ」と微笑んだ

こっちへおいでよ
今すぐこっちへ
ハイヒール脱いで
こっちへおいでよ
マリー

 

これを読んだカワイちゃんは笑えなかった。
むしろ、怒りがわいてきた。
この詞が自分に宛てたものではないことくらい、カワイちゃんにも分かったのだ。
「マリーって誰よ」
そう呟いてから、カワイちゃんはピンときた。
制服のポケットに手を入れる。
ゴムの感触。
消しゴムを取り出す。
ブサイくんから奪った消しゴムだ。
カワイちゃんは、しばらくそれを見つめていた。
今までの、ブサイくんの消しゴムに対する執着心を思い出す。
そして、なんとなく、本当になんとなく、その消しゴムを覆っている紙のカバーを抜き取ろうとした。
滑りにくいから、なかなか抜けない。
少し抜けたあたりで、油性ペンで描かれたような黒い線が見えた。
消しゴム本体に描かれている。
カワイちゃんは力一杯、引っ張って、カバーを抜き取った。
そこには、「マリー」という文字が大きく描かれていた。
「やっぱり‥‥」
カワイちゃんは静かに呟いた。

 

その頃、ブサイくんは絶望感にどっぷり浸かりながらも、街を自転車で徘徊していた。
「こんな所にいるわけないのに」
そう思いながらも、マリーを探さずにはいられなかった。
自転車をゆっくり漕いでいると、ポケットの中にある携帯が震えた。
確認するとメッセージだった。
カワイちゃんからだ。
「教室にいるよぉ」
そのメッセージの後に画像が送られてきた。
見ると、カバーを外されて丸裸にされたマリーの写真だった。
それを見たブサイくんは目を疑った。
だけど次の瞬間、血相を変えて、猛ダッシュで学校に向う。

 

さて、いよいよ、次が最後のお話なわけだ。
しかし、これといった壮大な展開を期待してはならない。
ただ単純に、恋がいつも通りの無慈悲さをかますだけなのだから。

 

 

「マリー」-22-
2013.6.29


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マリー 22
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