マリー

 

20

カラオケボックスで執り行われた、イケメくんの誕生バースデイパーティー。
男女計4人がいる密室で、その事件は起きた。
しかし、それが起きた瞬間には、誰も気付いていなかった。
すべては、カラオケボックスを出たあとで判明するのだった。

 

カラオケボックスをあとにして、4人は自転車を漕いでいた。
「マジでありがとね!すげぇ楽しかったよ!」
誕生日を祝われたイケメくんは、とてもイケメンな笑顔で言った。
みんなが幸せだった。
サプライズされた幸福感と、サプライズできた幸福感。
それ故に、それぞれの自転車が宙に浮きそうだった。
みんな浮かれていたのだ。
だがしかし!!
幸せは続かない。
それも恋の無慈悲さによるものだろうか。
ブサイくんは気付いてしまうのだった。

 

「あれ?マリー、どこやったっけ?」
そう思ったとき、心臓が強く脈打った。
急いで、ブレザーのポケットを探る。
右にはない。
左にもない。
じゃあ、ズボンのポケットは?
右にはない。
左にもない。
鞄か?
ブサイくんは自転車を止めて、鞄を調べた。
他のみんなも、驚いて止まった。
「どーしたんだ?」
イケメくんが言うが、ブサイくんの耳には入らない。
マリーは見つからない。
もしかして、カラオケボックスに置いてきたか?
そうだ。
そうに違いない!
テーブルの上に出していたし!
「ご、ごめん、ちょっと忘れ物したから、先帰ってもらっていいよ」
ブサイくんは3人に言った。
「マジで?じゃあ、一緒に行くよ」
イケメくんが言う。
「いや、大丈夫だよ」
ブサイくんは断る。
「何で?いいよ、ついでだし、一緒に行くよぉ」
カワイちゃんが言う。
「いや、本当に大丈夫だから」
ブサイくんは断る。
「何を忘れたの?」
キレイさんが言う。
「え?あ、あの、け、携帯!盗られたらヤバイから急いで行かなきゃ!じゃあね!」
ブサイくんは誤魔化す。
そして、自転車をターンさせて、漕ぎ出した。
「ちょっ!おい!」
イケメくんのそんな声が聞こえた気がしたけれど、構ってられなかった。
マリーが、もし、マリーがカラオケ店員の汚い手に触られたりしたら‥‥。
いや、それよりも万が一、受付の文具として使われて、あの美しい肌が黒くなってしまったら‥‥。
ブサイくんは良からぬ事ばかり考えてしまう。
しかし、安心して欲しい。
マリーは無事である。
無事であるが、ブサイくんはカラオケボックスでマリーと会うことはできない。
なぜなら、マリーは別の場所にいるのだから。

 

その夜、お風呂から上がったカワイちゃんは、机の前に座っていた。
ブサイくんは携帯を無事に見つけただろうか。
連絡がないということは見つかっていないのだろうか。
そんなことを考えて、カワイちゃんは少し笑ってしまった。
「ブサイくん、あんなに青い顔をしちゃうなんて」
そう呟いたカワイちゃんは両肘を机の上に立てて、手にはマリーを持っていた。
「何で、そんなにこの消しゴムが大事なのかしら?」
カワイちゃんはそう呟いて、マリーを机の蛍光灯にかざしたのだった。

 

 

「マリー」-20-
2013.6.27


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マリー 20
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