「マリー」

 

14

その授業が終わるまで、ブサイくんは放心状態だった。

マリーが。
僕のマリーが‥‥。

その二つの言葉だけが頭の中をぐるぐると回った。
それこそ、もうどうにかなりそうな事態であった。
しかし、時間は戻せないし、ブサイくんはその先を生きなければならない。
何が起ころうと始まった恋はリセットできないのだから。

 

終わりのチャイムが鳴ると、ブサイくんはゆらゆらとカワイちゃんの席に行った。
周りの生徒がブサイくんを見てくすくす笑っている。
「あ、ブサイくん、さっき、どーしたの?夢でも見てたの?」
カワイちゃんはそう言って、笑った。
可愛く、笑った。
それを見てブサイくんは、とてつもない怒りを覚えたけれど、我慢した。
我慢しつつ言った。
「あの、さ、MOMOの消しゴム貸してくれない?昨日、貸してくれるって言ったじゃん?」
「あー、いいけど、アレ、今日持ってきて無いんだよねぇ」
カワイちゃんは困った顔で言った。
可愛く、困っていた。
「‥‥え、さっき、持ってたじゃん。授業中使ってるの見たよ?」
優しく言っているようだが、ブサイくんの顔は強ばっていた。
「あぁ!これでしょ!?」
そう言って、カワイちゃんはブレザーのポケットから消しゴムを出した。

それは、マリーじゃなかった。
MOMOの消しゴムだが、違った。

「昨日買った消しゴム、イケメくんのプレゼントと一緒に、家に置いてきちゃったんだよねぇ。ほら、イケメくんの誕生日はまだでしょ?」
カワイちゃんは「テヘッ」と笑った。
可愛く、「テヘッ」だ。
ブサイくんは軽く混乱していた。
なんだって?
でも確かにこの消しゴムはマリーじゃない!
「で、これはね、友達に借りたの。消しゴム二つ持ってるって言うからさ」
それを聞いて、ブサイくんは一気に生き返った。
死んでいた訳ではないが、その表現が正しいくらい、顔に生気を取り戻した。
マリーの白いツヤツヤの肌のように、白髪になった髪の毛も黒く戻った。
そして、その勢いで言ったのだ。
「今日、放課後、カワイちゃんの家に遊びに行っていいかな?」
カワイちゃんは、その言葉に簡単に頬を染めた。

 

 

「マリー」-14-
2013.6.21


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マリー 14
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