マリー
15
「放課後」はいつの時代においても普遍的なものである。
あの解放感と気怠さ。
それから、どこからともなく心を満たしていく、感傷。
そこには、春夏秋冬が在るし、夕焼けや夜、雨や風も在る。
まるで青春の要素が凝縮されているようだ。
しかし、果たして、ブサイくんが放課後に対してそういう印象を持っているのかは分からない。
その日の放課後、彼はただ、同級生の女の子の家の前で、待っているのだ。
一軒家の白塗りの家だ。
その白に、ブサイくんはツヤツヤの肌のマリーを連想していた。
ところで、彼は何を待っているのか。
それは、少し遡って話さなければならない。
「今日、放課後、カワイちゃんの家に遊びに行っていいかな?」
カワイちゃんは、その言葉に簡単に頬を染めた。
ブサイくんはもちろん、カワイちゃんの家にいるマリーを奪還するつもりである。
しかし、悟られないように、巧妙な嘘を吐く。
「ほら、あのー、イケメくんのプレゼントをドッキリとかで渡したいじゃん?それで、そういう、作戦会議?的な?みたいな?そういうのしようよ!」
勢いで言っていたので、なんだか胡散臭い物言いになった。
しかし、カワイちゃんはもう、色々妄想しちゃって、そんな話、聞いているようで聞いていない!
「どうかな?」
ブサイくんは、目を見開いて聞いた。
だって、マリーの命が懸かっているのだもの。
「い、いいけど、部屋汚いから、片付ける時間だけ頂戴?」
ブサイくんは心の中でガッツポーズをした。
サッカー選手がシュートを決めた時くらいの勢いの良いガッツポーズだ。
というわけで、部屋を片付けているカワイちゃんを待っているのだ。
白塗りのカワイちゃんの家の前で。
家は、二階建てだった。
きっと、二階にカワイちゃんの部屋がある。
さっきから、二階の窓越しに人影が世話しなく動いているからだ。
「あそこにマリーがいるのか。‥‥今助けに行くからな」
ブサイくんは心の中で強く思った。
それは相手ゴールを見据える、ストライカーと同じような気持ちだ。
二階に見えていた人影がふと見えなくなった。
そして、しばらくして、玄関のドアが開いた。
「お待たせ!」
カワイちゃんが可愛く微笑んで、ドアから顔を出した。
私服に着替えて、可愛らしさを演出していたが、ブサイくんの心を動かすことはできなかった。
なぜなら、ブサイくんはマリーに恋をしているし、恋をしているときは盲目だからだ。
「ごめんね、なんか、わざわざ‥‥」
ブサイくんは眉を寄せていかにも謝る時の顔をしていたが、心の中にはマリーのことしかなかった。
サッカー選手が試合に勝つことしか考えないように。
カワイちゃんの部屋にはベッドと机があって、ベッドの前には小さいテーブルが置いてあった。
一人部屋としては、十分だ。
テーブルを挟んで二人は腰を下ろした。
妙な沈黙があってから、カワイちゃんが口を開いた。
「なんか、飲む?」
「飲む」
ブサイくんは即答した。
だって、その類いの言葉を待っていたのだもの。
「じゃあ、何か持ってくるね。たいした物、無いけど」
「あぁ、気にしないで!水でもいいし!」
カワイちゃんが、部屋を出ていったその瞬間!!!!
ブサイくんは、ズバッと立ち上がり、部屋を見回した。
そう。
マリーを見付けるために。
「マリー」-15-
2013.6.22