マリー
16
ブサイくんは必死だった。
嫌な汗で額が濡れている。
マリーを中々、見つけられないでいた。
机の上にはいない。
小さい、カラーボックスの本棚にもいない。
どうなってるんだ。
そもそも、イケメくんのプレゼントと一緒にしているわけだから、そこそこ大きいシルエットをしているはずだ。
なのに、見つからない。
見つからない。
見つからない。
見つからない。
見つからない。
見つからない。
見つからない。
マリー。
見つからない。
見つからない。
見つからない。
ドアの外から足音が聞こえた。
カワイちゃんが戻ってきたのだろう。
ブサイくんは仕方なく、最初に座っていた所に腰を下ろした。
「お待たせ。ジュースないから、冷たい麦茶でゆるしてね」
カワイちゃんは気まずそうな顔をしたけど、ブサイくんが気になるのはマリーのことばかりだ。
麦茶の入ったコップがテーブルに置かれた。
カワイちゃんは、麦茶を飲みながら世間話でもしようかと目論んだ。
なぜなら、ブサイくんのことが好きなカワイちゃんにとって、今日はブサイくんとの距離を縮める絶好のチャンスだからだ。
でも、ブサイくんはそれを許さなかった。
「さ、どっきりのこと考えようか!」
こちらもやはりマリーのことを思うが故の焦りだった。
「え、あ、うん。…そうだね!」
カワイちゃんは取り繕ったように微笑むと、机の引き出しから本屋の包みを出した。
その時、ブサイくんはカワイちゃんに聞こえないくらいの短い舌打ちをした。
大方、「そこにあったのか」というアレだろう。
「あぁ、何で、私、消しゴムも一緒に包装してもらっちゃったんだろう。別にしてもらえば、今日、忘れなかったのに」
カワイちゃんは、そう言って、本と消しゴムを包装している簡単な紙を開けると、二つを取り出した。
カワイちゃんの言葉を聞いたブサイくんは、今日、忘れずにマリーを持ってきてしまった時のカワイちゃんを想像して青くなった。
良かった。
忘れてくれて、本当に良かった。
でなければ、マリーは確実にあの授業中に使われていたのだから。
マリーがテーブルの上に姿を現す。
ブサイくんは目を見開く。
マリー。
感動の再会だ。
MOMOのパッケージの厚紙を纏った、白い肌のマリー。
あぁ、マリー。
何度、その姿を夢見ただろうか。
あぁ、マリー。
何度、その姿に恋心を抱いただろうか。
あぁ、マリー。
何度、その白い肌に触れることを考えただろうか。
やっと‥‥やっと、会えたね。
ねぇ、マリー?
もはや、泣きそうになっているブサイくんには気付きもせず、カワイちゃんが言う。
「ブサイくんってこの漫画読んだことある?面白いのかなぁ?」
当然、ブサイくんに聞こえているはずがない。
さて、このあとブサイくんは、用意していたMOMOの消しゴムとマリーをすり替えることに、簡単に成功する。
しかし、覚えているだろうか。
恋は無慈悲である。
このあと、更なる展開が待っているわけだが、そんなことは当然、ブサイくんは知る由もないのだ。
「マリー」-16-
2013.6.23