「生まれて8年目」

 

7月10日 曇り 晴れ

昨日、カルボさんに謝れたボクは、今日起きた瞬間も有頂天だった。
有頂天だから「忍法、意気揚々の術」をとなえた。
朝も意気揚々と家を出て、意気揚々と学校に着いて、意気揚々と時間を過ごした。
カルボさんも今日は学校に来ていて、昨日分かち合った秘密のおかげで、目があった瞬間、二人して声には出さずに笑ったんだ。
カルボさんは恥ずかしそうに、はにかんでいた。
かわいかった。
その後もボクは、意気揚々としていた。
意気揚々とし過ぎて、忍者ごっこをしていたボクらに「逮捕する!」と言ってきてたペペロンに両手を差し出したくらいだ。
ペペロンは「え?え?」と言うだけで、一向にボクを逮捕しようとしないから、「隙あり!」と頭にチョップをした。
その後、逃げるボクらをペペロンは必死に追いかけてきた。

 

学校から帰ると、すぐに公園に行って、逆上がりの練習をした。
これまた意気揚々と鉄棒を握って地面を蹴ったわけだけど、一度も成功しなかった。
「なるほど、忍法、意気揚々の術を使っても逆上がりはできないのか」
こうして、ボクはまた一つ新しいことを知り、中堅少年に近づく。
そして、忍者にも近づく。
早く、大人になりたいものだ。

 

今日の夜ご飯はハンバーグだった。
ボクはお母さんの作るハンバーグが好きだ。
益々、意気揚々だ。
お母さんは、何か良いことがあるとハンバーグを作る。
何があったのだろうか。
ボクは考えたけれど分からなかった。

テーブルの上のハンバーグを見ると、お父さんの言葉を思い出す。
「いいかい?ハンバーグだからと言って油断は禁物だよ?一見するだけで意気揚々としてしまうが、かぶり付いてはいけない。ハンバーグを前にした時こそ、冷静になるんだ。食べる前にしっかりとハンバーグを割って、中が焼けてるか見るんだよ?お母さんは、そういうところを気にしないからね」
お父さんはハンバーグが出るといつもこの言葉を言っていた。
お母さんには聞こえない小さい声で。
だからボクはハンバーグを食べる直前にはとても冷静になる。
今日もしっかりとハンバーグを割って、中を確認した。
しっかりと焼けていた。

ハンバーグを食べていると、お母さんが話した。
「今日のハンバーグは、昨日、あなたが無事に謝れたお祝いよ。よかったわね、謝れて」
そうか。
そうだったのか!
ボクは笑顔でありがとうを言った。
「謝るのって難しいね」
ボクは言った。
「そうね。簡単ではないかもね」
「お母さんはお父さんにちゃんと謝れるの?」
「謝れるときもあったし、謝れないときもあったわ」
「そうなんだ‥‥今度の日曜日はお父さんに会えるかな?」
「会えると思うわ。逆上がり、練習したいでしょう?」
「うん!」
ボクはここでも意気揚々と返事をした。

 

さっき、チュリオさんと相談して、一つの答えが出た。
ボクがカルボさんに水風船爆弾を当てたことをお母さんは知っていたんだ。
だから、今日、謝れたお祝いをしてくれたんだ。
言ってないのに、おかしいな。
きっとお母さんは中堅お母さんだから、昨日みたいにボクよりすごい忍術を使えるんだ。
それで、ボクのことは何だってお見通しなんだ。
恐るべし、お母さん。

 

 

「生まれて8年目」-10-
2013.7.17




生まれて8年目 10
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