「生まれて8年目」
7月12日 曇り
今日、ボクはとても勇気をだした。
こんなに勇気を出したのだから、簡単に中堅少年になれるに違いない。
なんと、ボクは本当にカルボさんをデートに誘ったのだ。
それは、昼休みの終わりだった。
校庭で、忍者ごっこをして汗だくになったボクは、教室の前にある水道の水をかぶ飲みしていた。
そこへ、カルボさんがやってきて、手を洗った。
ボクは水を飲む口を休めて、「あっ」と声をあげた。
それから水を止めて、「この間は本当にごめんね、今度また遊ぼうね」と謝った。
これは、デートの誘いではない。
カルボさんはこっちを見て「うん」とだけ言うと、またすぐに手洗いに集中してしまった。
だからボクは咄嗟に言った。
「あ、あのさ、明日、うちに生クリーム食べに来ない?お母さんが、生クリーム作るの得意なんだよね!」
言ったあとに、すぐに「しまった」と思った。
でも、今さら「嘘なんだ」とは言えない。
だって、さっきの反応が嘘みたいに、カルボさんはとても素敵な笑顔で「うん!行く!」と言ったのだもの。
家に帰ってから、ボクは、お母さんにお願いした。
もちろん、生クリームの生産をだ。
「何で?何かあるの?」というお母さんにボクは正直に話せなかった。
今思えば、恥ずかしかったんだと思う。
「う、うん、あの、生クリーム食べたいなって思って」
お母さんは一瞬、ボクを見定めるように目を細めてから、いつもの笑顔で、「仕方ない!じゃあ、買い物に行くわよ」と言ってくれた。
ボクは嬉しくて跳びはねそうだった。
明日カルボさんとデートができると思うと、ボクは普通ではいられなかった。
ベッドの上のチュリオさんを潰したり、捏ねたり、捻ったり、それはもう普通ではない。
きっとチュリオさんも困っていることだろう。
でも、ボクはこの気持ちをどうすることもできないので、そうするしかない。
ボクは遠足の前日よりもワクワクするし、緊張している。
「生まれて8年目」-12-
2013.7.19