「生まれて8年目」

 

7月13日 晴れ 夕方雨

朝起きて、わくわくしながらリビングに行った。
だって、今日はカルボさんが家に来る日だから。
でも、朝ご飯を食べているときにお母さんに怒られてしまった。
ボクがパンにジャムを塗っている時だった。
「恋が招いた事態でも、嘘をついたらダメよ。お客さんが来るんでしょう?」
お母さんもパンにジャムを塗りながら言った。
「え?」
ボクは、恥ずかしくて、カルボさんが来ることを言っていなかった。
嘘をついて、生クリームの生産をお願いしたからだ。
カルボさんが来ることは今日、学校から帰ったら言えばいいと思っていた。
「この間、やったでしょう?読心術くらいできるんだから」
それを聞いて、ボクははっとした。
そうだった!
お母さんには嘘もバレてしまう。
ボクは言い訳する言葉が見つからず、お母さんに謝るしかなかった。
それを聞いたお母さんは「わかれば、いいわ。さ、今日は頑張ってとっておきの生クリームを作るわよ!あなたも早く準備して学校に行きなさい!」と言って、ジャムをたっぷり塗ったパンをかじった。

 

今日は第2土曜日で学校はあるけど、お昼前に終わる。
授業が全て終わって帰りの会を終えるとボクはカルボさんの席に行き、「今日、2時くらいに公園で待ち合わせよう!」と言った。
「やっぱり‥‥」と言って断られたらどうしようかと思ったけれど、カルボさんは静かに頷いて、それで帰って行った。
なんともあっさりとしたものだ。
その後で、ソルトとペッパーが「今日も、忍術の修行をしよう」と誘ってきたけれど、ボクは「今日はホイップ泡立て術の個人練習をするからダメだ」と断った。

 

ボクは、カルボさんを迎えに行く2時まで、落ち着かなかった。
チュリオさんと遊んだり、お母さんが生クリームをホイップするのを手伝ったりした。
ホイップ泡立ての術はまだまだ修行を必要とすることが分かった。

 

そして、いよいよ2時だ。
ボクはカルボさんに水風船爆弾を当ててしまった公園まで歩いた。
会ったら何を話そうか、とても悩んでいる間に、公園に着いてしまった。
カルボさんはすでに居て、木陰の下のベンチに座っていた。
ボクはそこに駆け寄ると、「お待たせ、行こう!」と言った。
カルボさんは首だけ縦に動かしてボクに付いてきた。
結果を言うと、ボクの家に向かうまで、会話らしい会話は無かった。
ボクが何かを話したり聞いたりすると、カルボさんは静かに「うん」としか言わなかった。
ボクはそれでも一生懸命話して、何を話したか覚えてないくらいだ。

それなのに、お母さんが作った生クリームを見たカルボさんの興奮具合にはビックリした。
テーブルについたボクたちの前には、お皿に盛られた生クリームがでーんと居座っていた。
カルボさんは、身を乗り出してそれを見ていた。
ボクだって、こんな量の生クリームを見るのは、生まれてから8年目にして初めてのことだ。
驚いているボクをよそに、お母さんが言った。
「頑張っちゃったわ。でも、カルボちゃん、この間、気持ち悪くなったみたいだし、食べすぎ注意ね!」
「はい!」
学校でも聞いたことのないくらいの元気の良い声でカルボさんは答えた。
それからは、ボクがこぼす、「おいしいね」とか「食べすぎ注意ね」とか「何で生クリーム好きなの?」とか「もうすぐ夏休みだね」とか、そういった言葉を丸っと無視してカルボさんは生クリームに夢中だった。
ボクは話すのを諦めて、カルボさんを観察したり、甘い生クリームをはむはむと食べた。

 

カルボさんを送るとき、雨が少し降っていた。
天気雨だった。
傘を貸してあげて、二人で公園まで歩いた。
ボクはもう何も喋らなかった。
カルボさんも何も喋らなかった。

バイバイをするとき、カルボさんが「生クリーム、ありがとう」と笑顔で言った。
とても可愛い笑顔で、今度はボクが「う、うん」としか言えなかった。

 

ボクは、家に帰ってからずっと、生クリームに夢中なっているカルボさんを思い出していた。
早く大人になって、カルボさんと幸せに暮らしたいものだ。
そんなことを考えていると、今日もなんだか眠れそうにない。

 

明日はお父さんに会える日だ。

 

 

「生まれて8年目」-13-
2013.7.20




生まれて8年目 13
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