「で、これから君はどーすんの?」
3
夜の営み9回の裏ツーアウト満塁なう。
しかし、ツーストライク、スリーボールの局面でサヨナラニートホームランを放った僕はとても満足だ。
そのあと、僕とホトトギさんはベッドでお話をした。
例えば、あの8つの目玉焼きをどうするのかとか、卵を一気に使うとどれくらいお金を無駄にした事になるとか、時代は変わったけれどテレビを逆さにして観る文化にはなっていないとか、良いだろ?このサングラシーズとか、ディランの歌は本当はあんまり分からないんだとか、もう一度華麗なSEXをする気はないのかとか。
そりゃもう色々話したなう。
最後にホトトギさんは言う。
「で、君はこれからどーすんの?」
僕はなんとなくこれから僕がしなきゃいけないことを分かっていたような気がしたのでそれを言ってみる。
「旅に、…旅に出るよ、僕」
ホトトギさんは何も言わないで僕にぎゅっと寄り添う。
僕は確実におっぱいを触りたかったけれど、我慢したなう。
だって、男に必要なのは我慢とお茶目な遊び心だもの。
僕もぎゅっとホトトギさんを抱き締めると、10秒後に布団を飛び出す。
ガバーッ!って。
バイトの出勤時間に2時間寝過ごした時みたいに盛大なガバーッ!を決めて僕はパンツをはいてジーパンはいてTシャツ着てパーカー羽織って、ホトトギさんにアディオス!
実際に僕は「アディオス!」って言ったなう。
もちろんディランのサングラスに似たサングラスは掛けっ放し。
その暗闇からでも見える。
ベッドの中のホトトギさんとホトトギさんの控えめなおっぱいが。
だから僕はその控えめなおっぱいにも告げる「アディオス!」なーう。
外はパーカーを着てても過ごしやすい気温。
サングラスのせいで月の灯りがとても弱く感じるけれど、それは全部頑張りの足りない月のせいに転嫁。
たまには自分で光ってみろよなう。
そう思うけれど、それは丸々僕にも当てはまる。
だって、箱にスマイルで買ったディランのサングラスに似たこのサングラスもホトトギさんのカードで買っているんだもの。
「死ね!死して尚、死ね!」
あの白銀の月にそう言われても仕方が無い。
でも言わせねぇよなう。
だって、彼には口が無いんだもの。
そうなると、逆に彼が死んでいることになる。
その心は!?
「死人に口無し」と言うじゃない?
そんなことを考えて歩いていたらあっという間に20キロくらい歩いていたみたい。
時計忘れたから時間が分からないなう。
財布忘れたからお金も持ってないなう。
そこに免許証も入っていた訳だけど、それがないからホトトギさんの家の住所も分からないなう。
というか、自分の名前も分からない、なーう。
分かっているのは、僕がディランのサングラスに似たサングラスを掛けているってこと。
それでも歩いているなう。
ここはどこですか?
向こうに大通りが見える。
明るい。
多分、月より明るい。
その光をバックに婆さんがよたよた歩いてる。
こっち側に向かって歩いてくる。
あれは噂に聞く「夜中の散歩婆さん」に違いないなう。
婆さんこちらに向かって歩く。
僕そちらに向かって歩く。
エニウェイ!
婆さんはすれ違うとき、僕に話しかける。
「お前さん、こんな夜中にどこに行くのかい?」
僕は答えないなう。
知らない人と話したらお金を騙し取られるに違いないんだから。
「夜にサングラスなんか掛けていたら周りが見えなくて危ないよ」
僕は答えないなう。
知らない人と話したらジーパンを脱がされるに違いないんだから。
婆さんは喋るのをやめた。
だから僕は喋ることにした。
「ここはどこですか?」
「さぁ?私にも分からないのよ、それが」
「奇遇ですね」
「奇遇ですねぇ」
婆さんの目は僕を捉えちゃいない。
それでも婆さんは言ったなう。
多分、僕に向かって言ったなう。
「で、これからお前さんはどーすんだい?」
僕は10年前から決めていた事を言う。
忘れそうだったけれど、忘れていなかったから言う。
「どーすんだと聞かれれば、僕は川へ洗濯に行きます。そして婆さんには山へ芝刈りに行ってもらいます」
その言葉にニヤリと笑う婆さん。
僕と婆さんはハイタッチして、それぞれの道へと歩き出す、なーう。
「で、これから君はどーすんの?」-3-
2013.11.1