「で、これから君はどーすんの?」

 

1

「まぁさ、大学行ってるとか行ってないとか関係ないんだけどねぇ」
隣に立つ先輩フリーターは言う。
「はぁ」と僕は間延びした返事をしながら、入ってきたお客さんに「いらっしゃいませ」も言わないコンビニエンスストアのバイトなう 。

「まぁ、俺はさぁ、やりてぇことあっから就職もしねぇで、こんなバイトとかしてんだけどさぁ」
隣に立つ先輩フリーターは言う。
「はぁ」と僕は間延びした返事をしながら、明らかな未成年にタバコを販売するコンビニエンスストアのバイトなう。

「まぁ、それもそろそろ潮時っつーの?彼女とさ、幸せになろうかなぁなんて、考えちゃってんだよねぇ」
隣に立つ先輩フリーターは言う。
「はぁ」と僕は間延びした返事をしながら、その日の夕飯を考えながらコンビニエンスストアのバイトなう。

 

「で、君はこれからどーすんの?」

 

隣に立つ先輩フリーターが言う。
僕は先輩フリーターのちっとも格好よくない顔を見る。
「な、なんだよ?」
先輩フリーターは僕から一歩距離を置いた。
少し距離を置いてもまだその顔はちっとも格好よくない。
僕はもうどうでも良くなっていた訳だから、言ってやる訳だ。
「どうするのかと聞かれれば、コンビニエンスストアのバイト辞めます、なーう」
で、僕はそのまま着替えて帰ることにした。
「え?え、え?」
先輩フリーターは言う。
僕はそれに構わない。
「何?何、何?」
先輩フリーターは言う。
僕はそれをまるで通りすぎる車の音のような騒音としか捉えずに、帰宅。
完全なる帰宅なう。
夜はまだ20時。
帰路はなんだか清々しくもある。
中学だか高校だかの時に、部活に所属しないことを帰宅部と言った訳だけれど、ベンチャー企業「(株)ニート」の帰宅部に配属になりましたなう。

 

家に帰ると、手洗いうがいを済ませて冷蔵庫へゴー。
中には食材が豊富であります。
ホトトギさんが買ってくれているからだ。
とりあえず、二つだけ消費してある卵のパックを丸っと取り出す。
フライパンを火にかけるなう。
温まったら油をひく、そして卵をポンポン投入。
先輩フリーターのちっとも格好よくない顔を思い浮かべてポンポン投入。
するとフライパンに8つの目玉なう。
本当は怖いけれど、なべぶたを上手く利用して水を注して、バチバチ言わせたらこっちのもんで8つの目玉焼きができあがり。
3分半クッキング。
それを食べるでも無しに、テレビを逆さまにする作業に取りかかるのです。
この家の中にある僕の物と言えば、テレビオンリーワンで、それ以外を自由にできる権利なんてないから。
というか、そもそも、卵もあんなに使ったらホトトギさんは怒ることでしょう。
テレビを逆さまにすると、部屋を暗くして電源付けるなう。
大好きなDVDを上映。
ボブ・ディランの、なんか、イギリスに行くヤツ。
するとどうだろう、あの天才も僕に逆さにされている訳だ。
そしてどうだろう、ホトトギさんが帰宅なう。

 

「何これ?」
パンツスーツ姿のホトトギさんは言う。
すぐに部屋の電気を付けられる。
ゲットバックって訳かい。
ジャケットを脱いでから台所に行くホトトギさん。
僕はビビってる。
バレるからビビってるなう。
テレビの中でディランはお構い無しだ。
「ちょっと!」
ホトトギさんの声が聞こえた。
こっちへやって来る。
今日もショートカットのその髪の毛が可愛いねと思うなう。
「卵どうすんのよ?あんなに使っちゃって!」
今日もブラウス越しのその控えめなおっぱいが素敵だねと思うなう。
ホトトギさんは僕を見る。
僕もホトトギさんを見る。

 

「で?君はこれからどーすんの?」

 

ホトトギさんは呆れながら言った。
僕は言う訳だ。
「そりゃもう決まってますがな。風呂に入りゃんせ」
ホトトギさんはため息だけを残して先に風呂に入った。
その時、部屋に響くディランの歌声。
彼が歌う、「どんな気持ちだい?」と言う英語が僕の心に届くことなんて微塵も無かった、なーう。

 

 

「で、これから君はどーすんの?」-1-
2013.10.30

で、これから君はどーすんの? 1