「ロール」

 

ロール17

地元での撮影はなんだか緊張しました。
知り合いに見られる可能性があったからです。
だけど、まぁ、知り合いに見られたとしても、私がエミナだと気付いてくれないでしょう。
友人からも、「グラビアやってるでしょ?」などとあまり聞かれません。
普段あまりしないメイクのせいだったり、スタッフの方に言われる、「仕事中は顔が変わるね」ということから、そう思うのですが…。
私は雑誌などに載るに当たって思ったのです。
案外、バレないものだな。と。
毎日のように顔を合わせていた遅刻さんが私の写真が載っている雑誌をレジに持ってきた時は、とても緊張しました。
でも、拍子抜けな程、彼は気付きませんでした。
私にとってはありがたいことなのですが。
遅刻さん、元気でしょうか。

 

撮影が一段落すると、私は近くの公園のトイレに行きました。
何かあったら大変だからとマネージャーが付いてきました。
私は個室に入るとあのノートを取り出しました。
緊張のせいでしょうか。
満足のいく撮影ができていなかったのです。
そんな時はいつもこのノートに助けてもらいます。
遅刻さんのメイゲンノート。
私はテキトーにページを捲って、テキトーな所で止めます。
そこにあった言葉は「夜明けは夜なのか朝なのか、知ったところで何もない」でした。
頑張ります。
私はそう思ったのです。
そこへ誰かが入ってくる音がしました。
「エミナさん?」
女の子の声がしました。
トイレの前にはマネージャーが立っているはずなので、怪しい人ではないでしょう。
「エミナさん?そこ、トイレットペーパー無いですよね?あの、もし使うなら持ってきました」
女の子の声はそう言います。
それから「あ、怪しいものじゃないです!」と慌てて言いました。
何の事でしょうか?
私はトイレットペーパーホルダーを見ました。
確かに、トイレットペーパーはありませんでした。
私はノートを閉じると個室の外に出ました。
そこには制服を着た可愛らしい女の子が立っていたのです。
しかもその制服は私が卒業した高校のものでした。
「わざわざありがとう」
私が言うと彼女は「とんでもないです」と恥ずかしそうにしました。
「でもね、ただ籠っていただけだから、それ、使わないの。とりあえず、もらっておくわね」
そう言って、トイレットペーパーを受けとりました。
よく見るとなんだか不思議なトイレットペーパーでした。
しっかりとパッケージの紙で包んであって、そこには「花言葉トイレットペーパー」と書かれていました。

 

私は彼女とトイレから出ました。
「それにしても、よくここにトイレットペーパーが無いことを知っていたわね」
私がそう言うと彼女は困った顔をしました。
「私じゃないんです。その、向こうにいるんですが・・・ちょっと待ってて下さいね」
そう言って彼女は小走りで公園の入口に向かいました。
でもすぐに戻ってきて「いなくなってました」と困った顔で言いました。
マネージャーが「そろそろ戻る」という顔をしました。
私は彼女に「とにかく、ありがとうね」と言って去ろうとしたときです。
彼女は言ったのです。
「あの、ネットで、調べてみてください!『トイレットペーパー屋』で検索してみて下さい」

 

私は移動の車の中で、手に持っていたトイレットペーパーを見ていました。
そこにも『トイレットペーパー屋』と書かれていました。
私はケータイを取り出して、検索欄にその文字を打つのでした。

 

 

「ロール」-17-
2013.12.7

ロール 17
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