『ある町のgirls』

4

 

b

あの娘には、すでにboyfriendがいるのさ。
fourteen。
それがあの娘の生きるage。
笑えないことがたくさん起こる現実を、笑ってどうにかできてしまう、そういう頃さ。
もちろん、そんな風にできない場合もあるけれどね。
とりあえず、彼女も甘さと辛さの間に身をおいているというわけで、つまりそう、それは青春ってやつだ。
始まったばかりの、青春。
今から一年半くらい前の青い春に、吹奏楽なんていうものに首を突っ込んだ彼女は、それに励んでる。
クラリネットみたいなやつを吹いている。
それの練習には余念がない彼女だけれど、青春は忙しい。
他にも注意を向けなければならないことがたくさんある。
例えば、髪の毛のサラサラ具合だとか、前髪の整い方だとか、スカートの丈とか、他人の恋の話しとかもそれにあたるね。
化粧にも興味を持ち始めるけれど、彼女はあまりそれをしなかった。
クラリネットみたいなやつに嫌われたくないからさ。
きっとそうに違いない。
そんな風に、それらのことに注意を向けていたら、あっという間に彼女の1年半は過ぎていたというわけだ。
そして、彼女に初めてのboyfriendができたのはつい3週間前のこと。
彼女の周りにboyfriendがいる友達はほとんどいないし、school全体を見渡しても少ない。
だから彼女はschool全体に知られているというわけさ。
つまり、注目される。
だからって、それをこそこそと隠す必要もないから、二人は一緒に登校するし下校もする。
わざわざ、お互いに遠回りをしてね。
でも逆に、その遠回りを良しとするのがhumanだろ?
それで、今日もその算段さ。
彼女はクラリネットみたいなやつとの遊戯を終えて、boyfriendを待ってる。
すっかり暗くなった、昇降口で待っている。
boyfriendはサッカーをやっていて、時間的にはもう終わる頃だ。
彼女は前髪とかスカートの丈とか汗の匂いとか、そういうものを気にしながらそこに立ってる。
その頭の中はboyfriendのことばかりで、昔、夢だった「パン屋さんになる」ってことなんて微塵も考えていないのさ。
そんなもんだろ。
そして、駆け足でboyfriendがやってきて、その友達が後ろの方で煽る声がして、二人は少しハニカミながら歩き出して、遠回りをしながら色々な話をしているうちにあっという間にbye-byeする場所で、そこでも立ち止まって、別れを惜しみながら色々と話しているうちに、時間はあっという間に過ぎて、もう本当にbye-byeしなくてはいけない。
そこで、ふと間が生まれる。
月の光が淡く届いてお互いの顔は確認できている。
さて、boyfriendからのアプローチさ。
kissのアプローチ。
もちろん、彼女は初めての経験で、だけど案外冷静にその空気の中に身を置いている。
そして、こんなことを考えている。
「キスをする前とあとで、世界は変わるのだろうか」ってね。
変わると思えば変わるし、変わらないと思えば変わらない。
それはもう彼女次第だってことに彼女は気付いちゃいないんだ。
でもまぁ、そんなもんだろ、humanって。

 

g

「彼氏」っていう言葉の響きが、クリスマスとかバースデーとか、そういうものみたいに胸を高鳴らせるのにも少し慣れてきた。
まだたったの3週間だけれど、もう3
週間という気もする。
あの告白からそんなに経ったんだって、そう思う。

告白されたのは生まれて初めてだった。
もちろん、したことだってないけれど、まさか私がされるなんて思ってもみなかった。
彼は、サッカー部で学年は1つ上。
なんとなく見たことはあったけれど、話したことはなかった。
一ヶ月と少し前のあの日、部活終わって、帰るときに呼び止められて、振り向いたら、彼が一人で立ってた。
「話があるんだけど、いいかな?」
私は戸惑った。
周りに友達もいたし。
だけど、彼が「少しの時間で良いから」と更に言って、私はそれに頷いた。
友達には先に帰ってもらった。
二人きりになると、彼は言った。

好きだって。
付き合ってくれないかなって。

私は、その予感を感じていたけれど、本当に言われると、ビックリした。
どうしたらいいのか分からなくて、黙ってしまった。
「ダメ、だよね。俺のこと知らないでしょ?」
そう言われた私は「知らないわけじゃないです」と言ったあとで、嬉しそうにする彼に向けて「でも、あまり知らないので、友達からなら」と言った。

私たちはしばらく、友達として時を過ごした。
見掛ければ挨拶をしたり、軽いお喋りをしたり、小さな手紙のやりとりをして先生の悪口を書いたり、好きな音楽とか本とか芸能人とか、そういう話もした。
そしていつの間にか、私は好きになっていた。
彼の事を。

「得意な料理はなに?」
彼と一緒に帰るのは、その日で3度目だった。
「うーん。なんだろう?サンドウィッチとか?」
私がそう言ってから、恥ずかしさを誤魔化すために笑うと、「いいね。それ、今度の日曜日作ってよ」と彼は言った。
今度の日曜日っていうのは、彼が所属するサッカー部の試合がある日で、私が「応援に行くよ」って言っていた試合で…。
結局、その日曜日、私はサンドウィッチを作って持って行って、その日のうちに、私たちは付き合うことになった。

今日もいつものように一緒に帰っている。
遠回りをする帰り道。
できるだけ彼と居たい。
バイバイはしたくない。
だから、バイバイをする場所に着いてもしばらく話してしまう。
私たちの横には、古い木製の街灯が一本立っているけれど、電球が切れている。
昨日まではチラチラ点いたり消えたりを繰り返していたのに。
ついに終わったみたい。
だから、月の明かりだけが、私たちをささやかに照らしていた。
そんな淡い光の中でする、彼との話。
くだらない、だけど、とても大事にしたい話。
楽しい。
終わらなければいいのに。
いつもそう思っているけれど、ふと、会話が途切れた。

私より背が高い彼。
見上げる私。

彼の顔が、いつになく真剣。
私も真剣な顔になる。

あぁ、これって、キスかな。
キスをするのかな。
キスしちゃったら、世界は変わって見えるかな。

そんなことを考えていたら、ふと気になった。
見上げて見る、彼の顔の先にある木製の街灯。
本当は明るくなるはずのその部分に、何かがぶら下がってる。
それが気になって、近付いてくる彼の顔は視界の外れで見ていた。
彼の吐息を私の顔の肌が感じた瞬間に、それが何か分かって、私は思わず呟いてしまった。
「コウモリ?」

 

 

つづく

『ある町のgirls』-4-
2014.8.26


Love Is a Battlefield

ある町のgirls 4
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