「は」から始まる短いものがたり

 

反省の色が見えない。
ケータイの画面を観て、すぐに思った。
卵黄の乱で、北九州に退却させたというのに。

 
私は、退屈よりも詰まらないデートを済ませて、電車の中だった。
ねり消し入りのサンドイッチを食べて、「おいしいね」と微笑む彼。
とても不細工だった。
笑いをこらえるのが大変だった。
愉快な気分で帰ってきたというのに、メールを見て気分が害された。

 
「北九州の男が戻ってくる」と言う噂は、大学でも広がっていた。
ヤツは、この街に戻るなり、すぐにデートの申し入れをしてきたというわけだ。
「いつの間に、僕の知らないパスタ屋が出来ていた。今度行ってみないかい?」
なぜ、あんたと、パスタを食べなくてはならないのか。
そう言ってやりたい。
ヤツに食べられるパスタのことを思うと、胸が痛んで仕方ない。
パスタを救わねば。
立場をわきまえない不細工には、正義の鉄槌を。
でも、暴力は良くないわ。
私は可憐な乙女だもの。

私の友達に、ブラコンの美人がいる。
本当に綺麗だけど、ブラコンだ。
そして、その弟は、ブロガー兼私の下僕。
彼を上手いこと使って、北九州から舞い戻ったヤツに一矢報いることにしようと思い立った。
思い立ったが吉日。
素早く指示のメールを打つ。
「ブログばっかり更新してないで、蝸牛の殻をビニール袋一杯に集めなさい。」

 
ヤツにメールを送信し終わる頃に、駅に着いた。
夏の帰宅ラッシュは、今日も盛り上がっている。
ホームに立つとムッとした空気が体を包み込む。
冷房で冷えた体と、蒸してるホームの空気。
それが混ざるまでの感覚。

私はそれに夏を感じる。

 

 

「」から始まる短いものがたり
2012.6.23


 


「」から始まる短いものがたり7