「ぶ」から始まる短いものがたり

 

「ブロッコリー応援団」の曲で踊るのは最高だ。
何か嬉しいことがあった時は、この曲で踊る。
それが僕のプライスレスの表現の仕方だ。
今日は、久しぶりに親友に会えたのだから、踊るしかないだろ。

激しく踊って喉が乾いたから、水道から出るヤツに甘んじていた。
これは不本意だが、スパークリングを求めてまた外に出るのは面倒だ。
面倒事には首を突っ込まない。
腰に手を当てて、コップに滑り込んだそれを飲み干していると、部屋の左すみのミラーボールと違う光り方をするものを見つけた。
ケータイの着信合図だ。
「ブロッコリー応援団」の曲でステップを踏みながら床に落ちてる携帯に近づく。
どうやらメールだ。
噂の親友からだ。
どうしたんだ、ベストフレンド。
そう呟いて本文を開く。
読む前に、耳障りな「ブロッコリー応援団」の曲を止める。
踊るとき以外は最低の曲でしかない。

「友よ、僕は町ぐるみでいじめられているようだ。もうここには、いられない。さらば。」
本文を見て、驚きを隠せなかった。
まさか、ピーマンか。
僕がフードに仕掛けたピーマンのせいなのか。
ちょっとした悪ふざけだったのに‥‥。
ここで、一つ解ったことがあるよホームズくん。
ヤバい。
かなりヤバいよ。
てかもう、取り返しがつかないかもしれない。
在ること無いことを分かち合った親友を、僕はこの手で失うのか。
彼がいるからこその、我が人生ではなかったのか。
心臓が嫌な鼓動を刻む。
踊って出た汗とは別の汗が吹き出る。
お気に入りのロボットキャラが描かれたタオルで、その汗を拭った。
まだ、終わらせてたまるか、この友情!
お気に入りのコンバースを履いて、玄関のドアを開けた。

町を走りながら、親友に電話を掛けてみるが、出ない。
一先ず、駅の方に急ぐとしよう。
・・・待てよ。
その前にスーパーに寄ろう。
彼が旅の準備を整えているかもしれない。

 
夏の夜が、いくら過ごしやすいと言っても、走れば汗が出る。
なぜ、ロボのタオルを持って来なかったのか。
少し後悔した。
いや、実に後悔した。
でも、それどころじゃない。
急がねば。
でなければ、大切なものを失う。

夏に失うのは、水分だけで十分だ。

 

 

「」から始まる短いものがたり
2012.6.24


 


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