『残暑よ、何処へ。』

 

4

その日は気付けば15時を回っていました。
いけませんね。
ゆったりと過ごしすぎたようです。
私はさらりと支度をすると、出掛けました。
夏を探しに行かねばならないのです。
まだ夏が終わりではないことを証明するために。
向かう先は、八幡さまです。
その道すがら、私は考えます。
あそこならば、まだまだセミがたくさん鳴いているでしょうし、子供らが水鉄砲で遊んでいることでしょう。
混ざって、遊びたいものです。
楽しいことを想像しながら歩くと、時間はあっという間に過ぎます。
八幡さまを囲む木々が作った、もっこりとした小さな雑木林が見えてきました。
あんなに木が立っているのであれば、わんさかと蝉が鳴いていることでしょう!

八幡さまには、コンクリートで舗装された短い参道があって、その左右も木々に囲まれています。
私はステステとそこを歩きました。
おかしいです。
あまりセミの声が聴こえません。
夏の盛りには、ミンミンと騒がしくて、神社の厳かな雰囲気が少しばかり消えてしまうくらいなのに。
今は、数えるほどのセミしか頑張っていません。
八幡さまも、厳かな静けさを取り戻しつつあります。
もしや、夏は終わってしまったのでしょうか?
それは大変なことです。
私は「そんなはずない!」と自分に言い聞かせながら、参道を進みました。
短い参道はすぐに終わりを迎えます。
開けた境内の回りには、誰一人いませんでした。
水鉄砲をする子供らなんていないのです。
夏…。
残念な気持ちになりました。
だってもう、これは私の出番かもしれないからです。
肩を落として、境内の回りを見渡しました。
すると、手水場が目に入ったのです。
そして私は思い出します。
ここの手水場にはいつ来ても、水が張ってないということを。
そうです。
そうですとも!
水を補給する場所がないのに、水鉄砲で遊ぶ子供らがいるでしょうか!
ふふふふふ。
私は笑みをこぼしました。
だって、夏が終わった訳ではなくて、そもそもここで水鉄砲などしないのですもの!
私は嬉しくてたまりません。
でも、喜びとは長くは続かないものなのです。
聴こえたのです。
八幡さまを囲む小さな森の中から。
ヒグラシの鳴き声が。
あぁ。
なんということでしょうか。
私はその儚げな声に夏の終わりを感じずにはいられないのです。
夏…。
またまた残念な気持ちになりました。
しかし、諦めたわけではありません。
だって、海の近くの駄菓子屋では夏を見付けました。
この八幡さまで見つからなくても、一勝一敗、五分と五分です。
それにまだ山の近くの河原を確認していません。
ええ、そうですとも。
あそこではきっと、血気盛んな若者たちがビービーキューを楽しんでいるに違いがありません!
間違いがないです!
そうと決まれば、善は急げ!
駆け足のポーズをしましたが、よく考えればもう、ヒグラシが鳴いてしまう頃合いです。
一先ず、今日のところは出直すことにしましょう。
そして、私の出番を先伸ばしにするのです。

 

 

つづく

『残暑よ、何処へ。』-4-
2014.10.5


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残暑よ、何処へ。 4