『残暑よ、何処へ。』

 

6

今日も午後までゆっくり眠ってしまいました。
いけませんね。
私はゆるりと支度をして、出掛けました。
夏を探しに行くのです。
夏が終わっていなければ、残暑である私が活躍しなくてもいいのです。
なるべく活躍したくない私は、夏を探して、夏が終わっていないことを証明するのです。
そうすれば、私の出番は先送りになります。
そして、私の理想としては、私の出番無く秋がやって来ることなのです。
ふふふ。
それを想像して思わず笑ってしまいます。
しかしながら、昨日の八幡さまでの夏探しは失敗に終わってしまいました。
ですから今日はなんとしても夏を見付けなくてはなりません。
おそらく、今日見付からなければ、自ずと私の出番になってしまうでしょう。
そう思うと、ぶんぶんと足早になりました。

今日は山の近くの河原へ向かいます。
そこでは血気盛んな若者たちがビービーキューを楽しんでいるに違いがないからです!

天気はおだやかな晴れ模様で、なんだか秋の匂いがしなくもないです。
それは嫌な予感を感じさせますが、私はテクテクと歩き続けるしかありません。
だから、大きな山を正面にして、左右を背の低い草に囲まれた道をテクテクと歩いていたのです。
そしたら出会いました。
あまり仲の良くない友人にです。
河原へ続く道に「ぼけぇ」と立っていたのです。
あまり仲が良くないので、私は気付かない振りをして通りすぎようとしましたがダメでした。
話しかけられたのです。
「あれまぁ。まだご活躍ではないと聞いていたけれど、本当だね」
私は立ち止まるしかありませんでした。
いくら「あまり仲が良くない」と言っても、知らない仲ではないのですから。
「あなたが出番を先送りにしているせいで、秋が急にやってきてしまうし、それについて困っているやつがいるんだかね、まだやらないつもりかい?」
「ま…まだ、夏が終わってないので、私の出番ではないのです」
私が慌ててそう言うと、あまり仲の良くない友人は「困ったちゃんだねぇ、君は」と呟きました。
それから「河原に行ったって、夏の終わりしか転がっていないよ」と言うのです。
なぜ、私がこれから河原に行くことを!?
「まぁ、とりあえずさ、例年通り君に活躍して欲しい人が君を探しているからさ、出会ったら優しくしてやっておくれよ。ん、では!」
その言葉を最後に彼は去っていったのです。
私は、なんとも釈然としない気持ちを抱えたまま河原へと向かいました。

 

河原に着いてみると、私を迎えたのは絶望と言う名の、夏の終わりでした。
血気盛んかな若者は居らず、誰一人ビービーキューなどやってはいないのです。
当然、川遊びをする輩もいません。
河原には、花火の残骸などが転がっております。
あぁ。
あまり仲の良くない友人の言う通りだったのです。
これはいよいよ私の出番ですね。
私はへこたれました。
でも、諦めも肝心。
そう言い聞かそうとしても、私はそこから動くこともできず、ただだだ、ため息を重ねるばかりでした。

 

 

つづく

『残暑よ、何処へ。』-6-
2014.10.17


花火の図鑑


↓前回までの話↓
test003

残暑よ、何処へ。 6