『ゆめこに捧げるラブソング』
Song No.3
ときた君とゆめこは、同じ高校に通っていますが、クラスは別々でした。
普段、ゆめこがどんな風に過ごしているのか、ときた君はとても気になりましたがゆめこに会いに行くことはしませんでした。
恥ずかしいからです。
反対にゆめこは、ときた君のクラスの前を通る度に、ときた君を見付けると「ときちゃん!」と言って手を振ります。
ときた君は、そんなことをされてもただただ頷くだけでした。
それについても、ひとしきり反省をしています。
そして、ゆめこに向かって歌うのです。
放課後です。
みんなが帰ったあとの、誰もいない教室。
暖房が静かに音を立てています。
そこで、ときた君と友人のかなた君はおしゃべりをしていました。
二人は仲が良いので、よく一緒にいます。
ゆめこと付き合ってから、二人は遊ぶ回数が減りました。
でも、仕方のないことです。
だから、たまにおしゃべりをするのがとても楽しいのです。
でも、楽しい時間はあっという間です。
部活を終えたゆめこが教室にやってきました。
「ときちゃん、お待たせ。帰ろう。」
そうです。
ときた君は、ゆめこの部活が終わるのを待っていたのです。
笑顔のゆめこを見て、ときた君の顔はとろけてしまいそうでした。
だけれど、かなた君もいるので格好を付けて「おせーよ」と言ってしまったのです。
それを聞いたゆめこは、ほんの一瞬悲しい顔をして、それから笑顔で「ごめん」と言いました。
ときた君は、今すぐこの3階の教室から飛び降りたくなるほど、「取り返しのつかないことをしてしまった」と思いました。
そのことについて、ひとしきり反省をしました。
そして、ときた君はおもむろに背負っているギターを構えました。
となりのかなた君はタンバリンを構えました。
「ゆめこ!!俺には、歌うことしかできない!!素直な気持ちを歌わせておくれ!!!」
ときた君は、暖房で火照った顔で真っ直ぐにゆめこを見つめて言いました。
「聴いてください。ゆめこに捧げるラブソング」
ー『帰宅』ー
詞 消しゴム
曲 輪ゴム
(輪ゴムは友人かなた君のアーティスト名です。)
「一緒に帰ろうよ~♪」
初めてそう誘ったのは~♪
いつの時分であったかなぁ~♪
そんなに大事なことを忘れちゃうくらい~♪
君のことしか考えていないの~♪
帰ることしか考えていないの~♪
ゆるい坂道で~♪
君は~♪ (左側~♪)
僕は~♪ (右側~♪)
中央分離帯を~♪ (二人きりで~♪)
またいで走るよ~♪
サンキュー サンセット サンキュー♪
※
帰宅しようよ~♪
夕陽のおかげで背を伸ばす~♪
君の影はのっぽさん~♪
リアルのっぽはごめんさ~♪
帰宅しようよ~♪
夕陽のキラキラで輝いてしまう~♪
君の顔はキュートさ~♪
リアルキュートはガチOK~♪
できるなら一緒に~♪
帰ろ~うよ~♪
※くりかえし
( ) パートは友人かなた君のコーラスパート
ときた君は歌い終えました。
かなた君もやり終えました。
ゆめこは奇跡的に感動しています。
「・・・ときちゃん」
「・・・ゆめこ」
二人は抱き合いました。
そんな二人に微笑みながら、かなた君は静かに去っていきました。
クリスマスは、もうすぐそこまできています。
『ゆめこに捧げるラブソング』
Song No.3 2012.12.21