『ゆめこに捧げるラブソング』

 

Last Song

ゆめこは家のテレビで天気予報を見ています。
天気予報士は「今年の冬は去年に比べて・・・」と言いますが、去年の寒さのことなんか忘れているのにとゆめこは思うのです。
いつかの感動的なクリスマスの寒さだって、忘れてしまっているのですから。
「さて、今のうちに大掃除をしなくちゃ」とゆめこは独り言を言います。
静かに椅子から立ち上がると、ゆめこの荷物が押し込められている押し入れに向かいました。
ゆめこが居なくなったリビングでは、毛布にくるまった赤ちゃんが眠っています。

ゆめこは、物音を極力たてないようにごそごそと段ボールをあさって、要るものと要らないものを分けています。
年が明けて落ち着いたら引っ越しをするので、大掃除のついでに荷物を整理しているのです。

段ボールの中からは懐かしいものや、なにやら得体の知れないものも出てきます。
ゆめこは、ついつい一つずつ眺めてしまいます。
そうしているうちに一冊のノートが出てきました。
汚い大学ノートです。
ぺらぺらとページを捲ると、懐かしい形をした字で文章が綴られています。
ときた君の字です。
それは、ときた君が日記のように毎日ひとつずつ書いていた、ゆめこに宛てた歌のノートです。
ときた君とゆめこが二回目に過ごしたクリスマスに、ときた君がプレゼントしたものです。
ゆめこはその時を懐かしむように、1ページずつ時間を掛けて読みました。
そこに書いてある言葉は、今となってはバカバカしくて笑えるものもありますが、恥ずかしくなるくらい想いが込められていました。
ときた君は、ゆめこのことを本当に好きだったのです。

最後のページを開いたとき、リビングの赤ちゃんがうにうにと泣き出しました。
ゆめこは「はいはい、今行くよ」と愛情たっぷりの独り言を言うと、ノートを「いらないもの」の方へそっと置きました。
ぽつんと置かれたノートから、赤ちゃんよりも大きな声で聞こえてきそうでした。
「聴いてください。ゆめこに捧げるラブソング」と。

 

ー『その気持ち、太し』ー
詞 消しゴム
曲 消しゴム
(消しゴムはときた君のアーティスト名です。)

ねぇ 僕は数えきれないほど~♪
終わりを経験してきたよ~♪
ねぇ プリンを全部食べてしまった時の~♪
気持ちが分かるだろ~♪
ねぇ 終わりとはまさにそういう気持ちさ~♪

悲しいとか~♪
切ないとか~♪
なんだかよく分からないとか~♪
お腹が一杯とか~♪
君は言うわけだけど~♪
そのアクティブな気持ち~♪
太し~♪
気持ち~♪
太し~♪
太し~♪
気持ち~♪


でも もう良いじゃないか~♪
今日はまたクリスマスだ~♪
思い出せないくらいの恋なんて~♪
雪に埋めてしまえばいいよ~♪
だって 君の気持ち太し~♪

でも もう良いじゃないか~♪
今日はまたクリスマスだ~♪
本当は覚えている恋だって~♪
髭に埋めてしまえばいいよ~♪
サンタの髭に~♪
そうさ 君の気持ち太し~♪

※くりかえし

 

ときた君は歌い終えました。
しかしながら、抱き合う相手はゆめこではない、生まれてから24年目のクリスマスです。

そして、違うところでゆめこが抱き締めたのは、うにうに動く赤ちゃんです。

メリークリスマス。

 

 

『ゆめこに捧げるラブソング』
Last Song  2012.12.25


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