『ノリたい‼︎』

 

3 むすめ

私は冬になるとよく「赤いコートの娘」と呼ばれます。
それは多分つまり、私が赤いコートを着ているからでしょう。
「そんな安易なことがあるか」と友達に言われた事があります。
でも、世の中は安易なもので溢れているのです。
ジャックを挿すと流れる音楽とか。
タッチすると開く改札とか。
暗くなると光るライトとか。
金木犀の匂いに触れると感傷的になる気持ちとか。
ぺこぺこになると鳴るお腹とか。
安易なのです。
それなのに、それらの安易な物を複雑に考えてしまうのです。
私たちは。
だから生きるのが、たいへんに大変なのです。
例えば、恋なんかがその代表です。
大変です。
ぐぅ~。
あ、お腹が鳴りました。
そういえば、お昼ご飯がまだでした。
安易です。
安易なお腹です。
「お昼ご飯がまだ」と言っても、まだ起きたばかりです。
お昼に起きたのです。
短い髪の毛は、寝癖だらけでしょう。
まだ鏡さえ見ていません。
でも、大丈夫。
帽子を被って出掛ければなんとかなるものです。
だからまずは歯を磨きます。
それからリビングの小窓のそばに置いてある小さいサボテンに「おはよう」を言います。
この間買ったばかりのサボテンです。
名前を付けてあります。
左からアクセルとクラッチとブレーキです。
クラッチだけ丸っこいサボテンです。
あら。
私は思い出すのです。
急がないと教習所の時間になってしまいます。
私はその小窓を開けて天気を確認します。
マンションの5階から見た外は、冬の曇り空でした。
私は「寒い」とでも言うように肩を上げて小窓をいそいそと閉めました。
そして思うのです。
きっと、サボテンはここに置いていたら枯れてしまうと。
だけど、移動はせずにそのままにするのです。
なぜなら私の安易なお腹が、またぐぅと鳴ったからです。

 

つづく

『ノリたい‼︎』-3-


多肉植物・サボテン ブリキポット 5点セット


↓前回までの話↓

test003

ノリたい!! 3
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