「僕の町」

 

11

ユリタニさんはその状況を全部見ていたのか分からないけれど、笑っていたんだよ、君。
そして言ったんだ。
「それが生きるってことね」
僕はなんだか、もう彼女無しじゃ生きられないような気さえした。

 

僕らはショッピングセンターの外に設置されたベンチに座っていた。
ユリタニさんがコーヒーを奢ってくれたから飲んだ。
僕は普段、コーヒーを飲まない。
でも、なんとなく、よく飲んでいるかのようにコーヒーを受け取った。
君にもそういうことはあるかい?
あるとしたら、僕の人生もそんなに悪くないかもしれないね、君。

彼女は「あの母親は本当に分かってないわね」と話し出した。
僕は彼女の方を見た。
彼女もこちらを見た。
そして微笑んでから、言った。
「そう思わない?」
僕は頷く事さえできなかった。
それくらい、彼女に見とれていたんだよ、君。
「私たちは紙一重なのにね」
彼女はコーヒーを飲みながら言った。
「例えたら、コインみたいなもんでしょ。」
ユリタニさんは笑っていたけれど、いつもと違う雰囲気が漂っていた。
僕は胸騒ぎがしたけれど、口に含んだコーヒーの香りがそれをうやむやにしていく。
「投げられたコインが、どっちの絵柄を表にして落ちるかなんて、あなたに分かる?」
僕は首を横に振った。
「そうよ。誰にも分からない。どっちの絵柄になってもおかしくないわ」
彼女の口調が少し強くなった。
でも、笑顔だ。
優しくあろうと努めているようだ。
僕には分かってしまったんだよ、君。
ユリタニさんは怒っている。
「そして、どっちの絵柄になったって、同じコインよ。たまたまなのよ。本当に。あなたとして生まれたことも、あたしとして生まれたことも」
いよいよ、語気が強まっている。
喋れる君はこんなときどうするんだい?
僕みたいにただ聞いているだけで、いいのかい?
「本当に紙一重なのに。」
ユリタニさんはその言葉を最後に黙った。
あぁ、だけど、僕はこんなときなのに、嬉しかった。
ユリタニさんが僕のために怒ってくれたんだよ、君。
嬉しくないはずがないだろう。
僕はお気に入りのリュックから、アメの袋を取り出した。
パトロール中に見付けた、寂しがり屋、つまり迷子の子にあげるときのためにいつも持っている。
そういえば、今日はあげるのを忘れたな。
そんなことを思い出しながら、ユリタニさんにアメを差し出した。
彼女はアメを見て、僕の方を見て、そしてゆっくり微笑んでから「ありがとう」と言った。
「僕の方こそありがとう」と言いたかったけれど、言えない。
だから、僕が一番好きなオレンジ味のアメをあげたんだよ、君。

 

 

「僕の町」   -11-  2013.1.31


海賊アイテム ゴールドコイン 金貨 100枚

僕の町 11
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