恋が上手くいかないのは多々あることさ

 

6

テキストの余白に黒いぐるぐるを描いていた。
そんな風にシャーペンの芯を無駄に消費することは得意だった。
それにしてもゼミの時間がいつもより退屈に感じる。
アクビを我慢する。
目が潤んだ。
そんな状況で、考えていることはただ1つ。
バイト先の先輩にお花見を断られたこと。
やっぱり、彼女とかいるのかな。
もしかして、今行ってる旅行も彼女とじゃない!?
そう思うとやりきれなくなった。
誰にも気付かれないようにため息をつく。
そのままふと視線を上げると、机をコの字型にして並べているために、正面に座る同学年の男と目があった。
彼は気まずそうに、一瞬で目を反らした。
なに?
あ、…映画誘われたの断ったんだった。
え?
だからって、その態度は無いでしょ。
めんどくさいなぁ。
本当に。
なんなのよ。
映画断ったくらいで!
テキストに黒いぐるぐるを描く手に力が入った。
「そんなんじゃ、いつまで経っても彼女できないわよ!」って言ってやりたかった。

こういう男と比べてしまうと、バイト先の先輩は本当に格好良く思える。
顔は良いってわけじゃないけれど、バイト中の気の利かせ方はすごい!
そして、面白い。
正面に座る同学年の男を見て思う。
「きっと、この男にはそういうユーモアもないんだろうな」と。
例えば、変顔とかも格好付けちゃってできないタイプね!
「うんうん」と彼を見ながら自己完結で頷いていたらまた目が合って、そしてすぐに反らされた。
あぁ、もう!
なんなのよ!
イラついたそのタイミングで、黒いぐるぐるを描いていたシャーペンの芯が、折れた。

 

私はその授業のあと、嫌な女だということは分かっていたけれど、LINEでメッセージを送った。
バイト先の先輩に。
「旅行どうですか!? 今日は良い天気だから、羨ましいです!!」
なんて言うのは嘘。
本当はLINEなんか送れちゃいない。
私は、意気地が無いのと、ウザいと思われたくないのと、二つの弱い自分のせいで彼が更新したFacebookの写真に「いいね」を付けるのが精一杯だった。

 

 

「恋が上手くいかないのは多々あることさ」-6-
2013.4.5


恋と退屈 (河出文庫)

恋が上手くいかないのは多々あることさ 6