恋が上手くいかないのは多々あることさ

 

9

「そのバイト先の先輩の言うことは的を得ている」
友達は、顔色一つ変えないで科学者のように言った。
まぁ、俺もそう思う。
議題となっているそれは「あなた、モテないでしょ?」というバイト先の先輩の冗談めいた言葉だ。
その質問に俺は「ええ、モテません」とすぐに応えた。
なんと言っても、好きな人を映画に誘って、断られたら気まずくなって、目も合わせられなくなる程の器の小ささだ。
モテるはずがない。
映画を断られるまでは、ちょくちょくとLINEでやりとりをしていたけれど、それも送れなくなってしまった。
気まずいからだ。
自分でも認めよう。
俺はチキンだ。

「つかさ、もう、その先輩で良いんじゃん?バイト先の」
友達は眠そうに目を擦りながら、アクビでもしそうな感じで言った。
まぁ、俺もそう思う。
でもあの人は違うんだよなぁ。
一緒に居るのは楽しいけど、ドキドキしないんだよな。
好きな人を見てるときのような、あの感じがないんだ。
そりゃ、告白されたら分からないけれど、それってどうなんだ?
いや!!
やっぱり、ゼミが一緒のあの子が好きだ!!

 

俺はその夜、なけなしの勇気を全部注ぎ込んで、LINEのメッセージを送った。
もちろん、ゼミのあの子に。
そしていつもと同じように、送ってしまった後悔と、待っている間の苦痛を味わっていた。
何度も、自分の送ったメッセージを読み返す。
「ゼミの課題、終わりそうにないけど、そっちはどうよ?」
我ながら、気持ちの悪いメッセージだ。
読めば読むほど、返信するに値しないメッセージである。
どうりで返信が来ないわけだ。
変な納得をしていると、携帯が震えた。
LINEだ!!
急いでメッセージを開くと、それは俺が待っていた人からではなく、バイト先の先輩からだった。
「で、今日はドリア風ミラノどーするぅ!?」
それに対して、俺が笑ったのか、それともタメ息をついたのか、それはあえて秘密にしておくけれど、これだけは誰かに教えてほしい。

恋とはこんなにも不毛なものなのか。

それだけが知りたい。

 

 

おわり

「恋が上手くいかないのは多々あることさ」-9-
2013.4.8


恋文の技術 (ポプラ文庫)

恋が上手くいかないのは多々あることさ 9