恋が上手くいかないのは多々あることさ

7

ゆったりとしていた。
空気も風も草花も、それから太陽の光やそこにいる人々も。
何もかもがゆったりとしていた。
だから、ゆったりと歩いた。
普段いることのない、この町を。
バイトの給料を貯めて買った、少し良いカメラを首から下げて、興味があるものにはレンズを向けた。
たまに、携帯のカメラも使って、撮れた写真はFacebookにアップした。
数人に「いいね」を付けてもらうと、その中に彼女の名前を探した。
バイト先の女の子と、数人の大学の友達の名前しかない。
無いのは知っていたんだ。
彼女はあまりFacebookに興味がないから。
でも、だけど、彼女の名前が無いのが分かると小さいタメ息が出た。

旅行は、一人でしていた。
だから余計ゆったりしていたし、僕はそれを楽しむことができた。
欲を言えば少し、いや、本当はとても、彼女と来たかった。
でもこれも悪くない。
そういう風に彼女のことを考えては、歩いて、また彼女のことを考えて、それからカメラを構えて、時々なにかを食べて、彼女のことを考えて、温泉に入った。

夜、そういうときに限って、彼女は一層、僕を逃がさない。
お風呂から上がるとラインのメッセージが来ていた。
彼女からだ。
僕は旅館の人気のないロビーに、三つ並んでいる肘掛け椅子に座った。
メッセージを読む。
「旅行はどうよ!?温泉まんじゅうを買う場合は、きちんと味見をして、しっかり吟味して、美味しいものを選んでね!」
僕は「まんじゅうかよ」と小さく呟いて笑った。
僕はその時点で分かっていた。
いや、むしろ、もっと前からだろう。
すでに取り返しはつかない。
とてもじゃないけど、彼女に張り付いてしまった、僕の心を剥がすのは難しい。
そんな風にシリアスに思っていると、彼女からのライン。
僕はまだ返信していないというのに。
「あ、待って!私ね、そもそも温泉まんじゅう自体好きじゃないかも!あと、キャラもののストラップとかキーホルダーもいらないから!!」
僕は「なんだよそれ」と小さく呟いてまた笑った。
結局、僕は持ってない、この奔放さが好きなんだろう。

 

 

「恋が上手くいかないのは多々あることさ」-7-
2013.4.6


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恋が上手くいかないのは多々あることさ 7