『残暑よ、何処へ。』

 

1

「お客様のおかけになった電話番号は現在電源が…」
僕はケータイ電話を放ってしまいたい衝動に駆られたけれど、それは止めた。
壊れてしまっては困るからだ。
最近のケータイは、僕のハートくらいデリケートなのだ。
一体このアナウンスを聴くのは何度目だろうか。
ちっとも繋がらないじゃないか!
8月も過ぎて、これからだってときに!
そう、今はまだ9月だ。
なのになんだこれは。
彼女のいない9月なんてものは、9月であって9月でない。
去年やまたその前の年なんて、10月近くまで楽しめたというのに、今年はもう終わりなのか!?
やる気があるのか!?
いや、やる気の問題ではないかもしれない。
彼女はほら、そういう型にはまるような丸いものではないし、というかむしろ、そういう型にはまらないところが好きなんだ。
あえて、シーズンをずらして熱くさせる感じとか。
だから、こんな仕打ちをされている今だって、彼女への気持ちは変わらない。
僕は「明日こそ、いや、来週こそ、待て、来月こそ!」と彼女からの何らかのレスポンスを待ちわびている。
健気だ。
健気で仕方がない。
だけど、僕の友人ときたら、そんな健気の権化と化した僕に言うのだ。
「うん。待っているだけってのは、一番ダメさ。だって君ってヤツは男だろう?男が待っているだけっていうのは、一番ダメさ」
何を偉そうに。
僕より少し月収が良くて、僕より少しモテるくらいではないか。
たったそれだけだ。
他の部分では大差のない、同じフリーターではないか!
なのに、知ったような口を聞きやがって!
だがしかし…。
一理あるのだ。
彼の言うことにも一理ある。
そう、待っているだけでは始まらない。
だから、僕は健気であることを諦めて、どんどんと彼女に電話をした。
したけれど、繋がらず。
何度掛けても繋がらず。
「もうダメだ」と諦めかけるその度に、「一番ダメさ」という友人の声が頭に響いた。
ちくしょう。
早くしないと秋が来ちゃう。
それは困る。
だって、7月や8月にやりそこなったことが沢山あるのだから。

僕はもう電話を諦めて、自分の足で彼女を探すことにした。
聞き込みってやつだ。
でも待てよ。
誰に聞き込めば良い?
そもそも、彼女と仲が良いのって誰だ?
分からない。
考えても分からない!
こんなとき、相談できるヤツと言えば、例のフリーターの友人しかいない。
僕は仕方なく彼に聞いてみた。
するとどうさ。
彼女を見たって言うのさ。
「あー、彼女ね、そういえばね、あのー、海のところで見たよ。うん、あれは確実に彼女だね。間違いないよ。あの短い髪の毛と短いスカートは彼女さ。確か、一昨日の出来事だね」
言えよ!
見掛けた瞬間に僕に言えよ!
知ってるだろ、僕が彼女を追いかけているのを!
「次に彼女を見かけたら、すぐに連絡を寄越せ!」
僕は彼に怒りまみれの言葉をぶつけると、駆け出した。
何処へって、海へさ!

 

 

つづく

『残暑よ、何処へ。』-1-
2014.9.24


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残暑よ、何処へ。 1