「で、どうする?」的なニュアンスで終わる短いものがたり

 

生クリームが好きで仕方がないのです。
あの純白のふわふわをご馳走してくれるのならば、どなたにでもホイホイと付いていく自信があります。
「生クリームを信じるものは救われる」という言葉が在る限り、私はその精神を貫くことに決めています。

 

そんなわけで、会社の先輩に「おいしい生クリームがあるんだが」と誘われるがまま、大衆居酒屋で楽しんでいるのです。
ただ、残念なことに、いつまで経っても生クリームは姿を現しません。
もしかして、先輩は主役を最後に登場させる気なのかもしれません。
そう思うと期待はさらに膨らむのでした。
しかし、結局、先輩は生クリームをご馳走してくれることなく、帰り支度を始めました。
「お金払っておいて」と、どさくさに紛れて私の胸にまで触ったのです。
生クリームもご馳走してくれず、セクハラをするなど、言語道断です。
「何か忘れてませんか?」という意味を込めて、先輩を見てみましたが、なぜか顔を赤くしてトイレに行ってしまいました。
腹が立ったので、お会計をしてそのままお店を後にしました。

お店を出た後、携帯電話を確認すると、同僚から何件も電話が来ており、掛け直しました。
電話に出るなり彼は「あ!おい!俺の免許持ってるだろ!?返してくれ!それがないと、警察から出れない!」と喚くのでした。
そして、昨日のことを思い出し「そんなこともあったなぁ」と思いました。

 

昨夜は、彼に「生クリームを奢るよ」と言われホイホイとホテルまで付いて行ったのです。
「ホテルの生クリームは、どれだけふわふわなのでしょう。」と期待を込めていたにも関わらず、今日と同じく、生クリームは一向に姿を現しませんでした。
彼が先にシャワーを浴びると言い出した頃には、私はもう飽き飽きとしていたので、彼の免許証を乾燥昆布とすり替え、背広には手裏剣を忍ばせるという、なんともハイカラな悪戯をしました。
私は、今、世間をお騒がせしている忍者ドロボーのファンなので、定期券は忘れても手裏剣は常に持ち歩いているのです。
乾燥昆布は、何かの忍術に使えないかと、鞄に忍ばせていたものでした。
とても役に立ってビックリしました。

それにしても、免許が無くて警察から出れないとは、何事でしょうか。
少々、責任を感じました。
「確かに、私が持ってますね!届けに行きますけど、今度こそ、生クリームを奢ってくださいね!」
私が電話越しにそう言うと「あぁ、うん!約束だ!」と彼は言うのでした。
私は電話を切ったあと、大人として、免許証を届けようと歩きだしました。
その時、ばったりと友人に会い、声を掛けられました。
「パーティーやってんだけど、来ない?生クリーム、すっげぇあるよ!!」
私は非常に困りました。
免許証を届けに行かなければならないし、でもだけど、すっげぇある生クリームもお目にかかった上で食べたい。

神様はこんな風に、時に、とんでもない誘惑で人の人生を変えてしまうのです。

 

 

「で、どうする?」的なニュアンスで終わる短いものがたり
2012.7.11


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「で、どうする?」的なニュアンスで終わる短いものがたり4