「で、どうする?」的なニュアンスで終わる短いものがたり

 

「空豆ちゃん、頂きまーす。」
大衆的な居酒屋で、少しばかり青い焼き銀杏に彼女は言う。
カウンターに横並びに座る彼女は、かわいい。
そういう所がモテることを、彼女以外の誰もが知ってる。
この可愛さを自分だけのものにしたくて、どれだけの苦労をしたことか。
勝利を称え、ビールを飲む。
よくやったぞ、俺。
「昨日食べた空豆ちゃんもおいしかったなぁ。」
勝利に浸っていると、左隣にいる彼女がそんなことを言い出した。
聞き捨てならん。
「昨日も飲んでたの?」
ここは、迷わず探りを入れる。
「ええ、そのあと、ホテルにも行きました。」
思わず、「ふぁっ!?」と言いそうになるが、何も聞こえなかった振りをして、ビールを追加。
店暇じゃないが、ビールはすぐに運ばれた。
「あ、さーせん。」と店員からビールを受けとる俺の横で、「だから朝帰りでした。」と彼女は言った。
この素直さと屈託の無さが女性群に嫌われることを、彼女以外の誰もが知っている。
しかしながら、さっきから聞き捨てならんことばかり、彼女の口から飛び出している。
断じて聞き捨てならん。
「あれ、彼氏いたっけ?」
「いません。」
あっという間の返答であった。
余計に混乱するではないか。
気付けば、さっき注文したビールがもう空だ。
やってられないので、強いお酒に切り替える。
「すみません」と店員を呼び、注文すると、「私も、それ、頂きたいです!!」と彼女が言った。
飛んで火に入る夏の虫とは、このことか。
願ったり叶ったりの状況である。
酔ってもらうのは一向に構わない。
というか、酔ってもらいたい。
そして、今日も朝帰りをしてもらおうではないか。

 

強い。
かなり、強い。
事前のリサーチで、ある程度、心得ていたつもりだったが、強すぎはしやせんかい?
「お酒強いね。」
「良く、言われます。」
このお酒の強さは、自他共に知られているということか。
「そんなことよりも、昨日、ホテル行ったのって、うちの社の人?」
お酒の力は偉大である。
こんな質問も朝飯前になる。
「そうです。良かったですよー。」
うん。
もう帰ろう。
なんだこれ。
割り勘にしてもいいかな?
いや、それはならん。
ここでやけになっては男が廃る。
しかし、とりあえず、帰ろう。
それは決定事項だ。
でも、こんなとき、神様は放っておいてくれない。
余計なお世話を働くものである。

 

俺はすぐにでも帰りたかったが、少しだけ、時間をおいて、店員にお会計を出してもらった。
お会計が出たので、財布からお金を取りだして「払っておいて、トイレ行ってくる」と一万円を持った左手を彼女側に投げた。
ふと、なにやら、変な空気が流れる。
時間が、スローモーションに感じる。
なんだ?
彼女の方を見る。
僕の手の甲が、彼女の胸に触れているではないか。
そうか、手が胸に触れたか。
うん。
逃げ出したい。
忍術が使えれば、何かしらの術を使い、何かしらの方法で逃げ出したかった。
でも、何もできない。
言葉も出ない。
彼女は上目遣いでこちらを見るばかりである。

 

 

「で、どうする?」的なニュアンスで終わる短いものがたり
2012.7.10


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