「で、どうする?」的なニュアンスで終わる短いものがたり

 

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乾燥昆布を右手に持っていた。
それは、限りなく免許証サイズに近い大きさにカットされていて、僕の顔写真が左隅に貼ってあった。
空いたスペースには乱雑な文字で「KONBU」と書かれていた。
陽気なお昼前、人気のない広い公園で、それを差し出された警察官二人は言葉を無くしていた。

 

会社に行くのを丁重に辞退させてもらった今日、僕は公園でぼーっとすることを潔しとした。
リアルな社会は実に疲れる。
かといって、妄想も糖分を消耗する。
できれば、息だけしてたい。
吸って吐く。
吐いて吸う。
それだけで、給料を出してくれる会社を随時募集しているけど、一向に名乗り出てくれない。
「これは一体、どういうわけか」公園のベンチに座って、そんなことを考えていた。
そして、気付いた。
公園と黒のスーツは、とても相性がよろしくないということを。
考えていたことと、出た答えの食い違いに小さな驚きを隠せないでいると、二人組の警察官に声を掛けられた。

「最近、この近辺でドロボーがよく出没するんだが、君はこの辺の人かな?」
そのことなら、僕も知っていた。
なんでも、「忍者の格好をした、風変わりなドロボー」という報道をされているのをテレビで見たことがある。
しかも、逃げるときに、本物の忍者さながらの術を使うという噂もある。
で、今、僕は、その忍者ではないかという疑いを掛けられているわけだ。
まぁ、「公園とスーツと僕」はミスマッチにも程があるから疑われても仕方ない。
見事にマッチする「部屋とYシャツと私」が羨ましい。
とりあえず、大事になるのは御免だ。
おとなしくしておこう。
「身分証見せてもらえる?」
僕は素直に従うことにした。
財布を取りだし、定位置にしまってある免許証を取り出す。
それが、乾燥昆布だったわけだ。
「おかしいな。昨日まではちゃんとした免許証だったのに。」
僕はそう言ってから、焦って財布の中身を探した。
すると、警官の一人が「ま、まさか、変わり身の術か!?」などと勝手に盛り上がりだした。
おいおい、待ってくれよ。
こんな昼間から、そんな下らない冗談で笑えねぇよ。
「え?まさか、お前、忍の者か!!」
もう一人の警官も騒ぎだした。
めんどくせぇ。
何なんだよこいつら。
早く免許証探そう。
僕は眉に皺を寄せながら、背広の内ポケットを探すと、何やら、変な形の堅いものが入ってた。
「なんだこれ?」と思い、取り出してみると手裏剣だった。
それを見た警察官二人は、言葉を無くしていた。
しかし、表情は「みーつけたっ!」を意味するかのようなニヤリとした笑顔だった。

OK、よく分かった。
神様は、無責任に人の人生を弄ぶことを生業としているのか。

 

 

「で、どうする?」的なニュアンスで終わる短いものがたり
2012.7.9

「で、どうする?」的なニュアンスで終わる短いものがたり2