「で、どうする?」的なニュアンスで終わる短いものがたり

 

5ー2

悲しきことは、刺激的でないこと。
嬉しきことは、刺激的であること。

嬉しきかな。
俺は今、とても刺激的な状況を味わっている。
大の大人2人で、忍者の格好をして、闇夜に紛れているのだ。
これ以上ないスリルだ。
腐れ縁1号は「こんな格好じゃ女にモテん!!」と憤慨していたが、そんな格好しなくてもモテんことに気付いていない。
「せめて、頭巾は被らん!顔が見えなくては勝負にならんからな。」
彼は、顔が見えても勝負にならんことにも、気付いていない。

バーを営む腐れ縁3号にもらった、とても分りやすい地図のおかげで、道に迷っていた。
「ここは、忍者らしく人様の家の屋根に登って、町全体を俯瞰すべきだ。」という俺の提案を1号は、ことごとく却下した。
「ならば、肩車をしろ。」
それに対しては、大した文句も言わず、俺を肩に乗っけるあたり、こいつもかなりの変態だ。
俺ほどではないが。

「忍法・肩車」をして、すぐに会場を見つけた。
外観がすでに騒がしいオーラを出していた。
少し大きめの一軒家だ。
そして、側にパトカーが停まっていた。
なにやら、ワクワクするではないか。

開け放たれた玄関に、肩車のまま近づいた。
ドアの前には、警官二人と、スーツ姿の男が一人立っていた。
スーツの方は多分、刑事だろう。
面白い。
「頼も~う!!」と、大声で叫んでみると、その三人はこっちを振り向いた。
俺を肩に載せている1号を見た、スーツ姿の男が「あれ、先輩!」と言った。
知り合いなのか?と1号に聞こうとすると、警官が喚きだした。
「先輩だと!?やはり、お前は忍びの者か!!そして、ここは、アジトに間違いないようだな!!」
なんの話をしているんだこいつは。
もう一人の警官も騒ぎ出す。
「ヤバイっす!影分身とかされる前に引っ捕らえましょうよ!!」
俺以外にも、変態はいるものだな。と新たな事実を知った。
所詮、俺も井の中の蛙だったというわけだ。
しかし、俺は大海を知りたい!!
そっちの方が、刺激的だからな。
刺激を求める本能に従って「忍法・肩車の術!!」と大声で叫んでやった。
下の方から「勘弁してくれよ」と聞こえてきたが、スリルを避けようとするヤツの言葉など、無視するに越したことはない。

俺の大声に警官がビビっていると、玄関の向こうから、我々と同じ黒い忍者服を着たヤツと赤い忍者服を着たヤツが覗いてきた。
すると、赤い忍者服を着た方が、「あれ、先輩!」と言った。
1号は本当に忍者なのか。
一抹の疑念を抱いていると、警官がまた喚く。
「ぞくぞくと忍びが現れる!!チキショーどうなってやがる!!」
「でも、リーダーはアイツっぽいので、アイツを捕まえましょう!」
警官は腐れ縁1号を指差し、こっちに向かって走り出した。
チーム肩車は解散だ。
文字通り、肩の荷が降りた1号と俺は逃げる体勢に入る。
その瞬間、玄関奥にいた黒い忍者服のヤツが逃げ出すのを、俺の目は捕らえた。
すかさず「あー!!」と叫んで、黒忍者を指さすと、馬鹿そうな警官はそっちを追い掛けた。
もっと馬鹿そうな警官は、1号を追い掛けるつもりらしい。
とりあえず、俺は、ひらりと身をかわす。
そして、玄関に向かって走る。
赤忍者が一人取り残されていたからである。

近づいてみると、それは、女であった。
ここでまた、俺の悪い癖が出た。
刺激が欲しい。
俺は、今日、覚えたばかりのそれを言ってみた。
「生クリームでもご馳走するけど、この後、どう?」
さぁ!是非とも、変態を見るような目で、見てくれ。

 

神様は、たいていの場合、人の期待を裏切るのである。

 

「それは、本当ですか!?どこへ行きましょう?」
女忍者はキラキラした目で、俺を見上げるのだった。

 

 

おわり

 

「で、どうする?」的なニュアンスで終わる短いものがたり
2012.7.17


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