あるアパートでの一件

 

1

管理人

分かってる。
俺が間違ってた。
でも、そのグミを鼻に詰めるのだけは止めておくれ。
頭がおかしくなりそうだ。
ただ、ただ、ちょこっとだけ君の下着姿を見たかっただけなのに。

 

俺は、ベッドに縛り付けられている。
そして、熊の形をしたグミを鼻に詰められようとしている。
相手は女で、この部屋の住人。
そして、俺は、このアパートの管理人。
若くして、管理人。
別に自慢しているわけではない。

その日、俺は二階の廊下の掃除をしていた。
そして、見つけてしまった。
この部屋の廊下側の台所の窓が開いていて、部屋の中が見えることを。
彼女が着替えるところだった。
俺は迷わず覗く。
もちろんだ。
逆に聞きたい。
君は覗かずにいられるのか!

そして、それに気付いた彼女。
怒って玄関に駆け寄ってくる彼女。
逃げる俺。
ドアを乱暴に開けて出てくる彼女。
その音にビビって振り向く俺。
彼女を正面にした俺。
俺の顔にタイツを被せ始める彼女。
もがく俺。
しかし、傘で殴られる俺。
そして、タイツを完全に被った俺。
また、傘で殴られる俺。
笑ってる彼女。
マジかよ。

 

で、ベッドに縛り付けられてる俺。
タイツは、鼻の上までめくられている。
部屋に入れられる前に、「見たでしょ?」と言われる。
俺は、二枚目の顔を作って「か、管理人の特権だ馬鹿者!!」と叫んだが、信じられないくらい傘で殴られた。
だから、俺はもう全て諦めて、部屋に充満する、女の子の部屋特有の良い匂いだけを楽しんでいた。
そこに、熊の形をしたグミだ。
最悪だ。
熊だけでも怖いのに、グミになってるなど信じられない。
熊の暑苦しい毛と、グミの歯応えを想像しただけで、失神しそうになる。
それを彼女は、俺の鼻に詰めようとしているのだ。
俺は、毅然とした態度で言った。
「そんなことしても何もならん!ただ、熊の形をしたグミが俺の鼻に入るだけだ!そして、俺はお前の下着姿をこの上なく目の奥に焼き付けた!!君の敗けだ!!」

殴られた。
傘で。
痛い。
やめて。

もう殴られたくないから、俺は彼女に身を委ねるのだった。

 

 

「あるアパートでの一件」-1-
2013.7.22


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あるアパートでの一件 1