マリー

 

5

ブサイくんはそわそわしていた。
それは通学の途中だった。
前の日の夜から、ずっと想像していたのだ。
教室に入ってそれを見たとき、本屋で抱いた感情が、もしかしたら、確かなものであると分かってしまう、その瞬間を。

 

そして、いよいよ教室に入る。
置き勉しているペンケースや教科書をロッカーから取り出す。
それを机の上に置く。
ここでも、そわそわしながら席に着く。
いつもは仲間と朝の心底下らない話をするのだが、その日はする気になれなかった。
自然と呼吸を整えた。
ジップ式のペンケースを開けた。
その時、教室のドアが開く。
入ってきたのは、キレイさんだった。
ブサイくんの視線はペンケースからキレイさんに向かった。
そして、「今日もキレイだなぁ」と鼻の下を伸ばした。

 

ブサイくんがそわそわしていた話しに戻ろう。
結論から言うと、大丈夫だったのだ。
本屋で、白い肌などを見たときのような感情が溢れでてくる感覚には陥らなかった。
ブサイくんは心底、安心した。
「良かった。僕は普通だ。やっぱり、僕が好きなのはキレイさんだ」と安心した。

 

さて、そろそろ、話が見えなくなって来ている頃だろう。
未だにマリーが出てきやしないし、なんだか訳が分からない。
でも、安心して欲しい。
実はすでに、ブサイくんはマリーに出会ってるのだ。
そして、恋に落ちてる。
あの、ショッピングセンターの本屋でね。

 

 

「マリー」-5-
2013.6.12


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マリー 5
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