マリー

 

4

ラブストリーは突然だ。
「やぁ!」
「あら、イケメくん」
「偶然だね。‥‥あ!キレイさんも『月見のジニー』を買いに来たんだね」
イケメくんは目ざとく、キレイさんが持ってる漫画に気付く。
「そうなの。イケメくんも読んでるのね」
キレイさんは至ってポーカーフェイス。
でも、声のニュアンスからして、少しばかり嬉しそうだ。
「やっぱ、買っちゃうよねぇ」
二人が織り成すその会話は、ブサイくんの耳には入らなかった。
なぜなら、ブサイくんは目を奪われていたからだ。
いつもより白いように感じる、肌。
黒く長い真っ直ぐな、それ。
そして、何よりも凛とした態度。
そうした全てが、ブサイくんの意識を支配して逃がさなかった。

「おーい、行くぞ。何ボーッとしてんだよ?」
イケメくんのその声で、ブサイくんはハッと我に帰った。
そして、激しく思ったのだ。
おかしい!!
どうかしているに決まってる!
いつも見ているじゃないか!
なんで、なんで今日に限って、こんなに‥‥。
「なんか、お前、汗がすごいぞ?大丈夫か?」
ブサイくんのおかしな様子に気付いたイケメくんが声を掛けた。
「あぁ、うん。あ、あれ?キレイさんは?」
「なんか、このあと塾があるって、帰ったぜ」
「そ、そう‥‥」

 

本屋を後にした二人には、いつもと代わり映えしない時間が流れた。
代わり映えしない、心底下らない話。
代わり映えしない18時。
代わり映えしない帰り道。
代わり映えしない分かれ道。
代わり映えしないバイバイ。

それはもう本当にいつもと代わり映えしないことばかりだった。
ただ、一つ。
ブサイくんの心持ちを除けば。

 

 

「マリー」-4-
2013.6.11


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マリー 4
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