マリー

 

9

恋には、色々なカタチがある。
例えばそれは、一目惚れだったり。
そうでなければ、ずっと一緒にいて徐々に好きになったり。
「好き」の始まりが恋だったり。
「恋」の始まりが好きだったり。
それは、様々だ。
世間には、数えきれない恋のカタチがある。

ブサイくんの場合もまた然り。
不思議とも言えるし、よく在るとも言える。
言うなれば、「ずっと知っていたけれど、今さら一目惚れをした」という状態であった。
そう、ブサイくんは、その相手を以前から知っていた。
知っていたも何も、一緒に時を過ごしていたのだ。
時には助けてもらった。
体を削ってでも助けてもらった。
でもそれは、彼女の存在意義を高めるモノでもあって、悪いことではない。
だけれど、その彼女は、彼女であって彼女でないのだ。
もう少し分かりやすく説明しよう。
人間に例えるならそれは「女」との出会いだった。
だからと言って、「女」には様々なパターンがある。
性格や個性、外見が違うのだ。
ただ、総称が「女」というだけである。
その中で、自分の好みに当てはまる人を好きになる。
つまりそういうことだ。
言ってしまうと、「消しゴム」にも様々なパターンがあって、今まで共に過ごしてきた消しゴムに、ブサイくんは何の感情も抱かなかった。
今、ペンケースに入っている消しゴムも同じだ。
しかし、一目惚れをしたのだ。
とある消しゴムに。
いつもペンケースに収まっている、あの消しゴムと同じはずなのに、どことなく違う消しゴムに。

白い、肌。
ツヤツヤとした、肌。

それは、どこからどう見ても消しゴムだった。
だが、消しゴムに恋をして何が悪い。
良いこともないが、悪いこともないだろう。
というか、問題はそこではない。
ブサイくんが一目惚れをしたその消しゴムを、先程、カワイちゃんが買ってしまったということが問題だ。

そうさ。
恋は無慈悲なのだ。

 

 

「マリー」-9-
2013.6.16

プラス プラスチック消しゴム AIR-IN(エアイン)レギュラータイプ 13g ER-060AI 36-406

マリー 9
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