マリー

 

10

どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。

ブサイくんは、焦っていた。
そもそもなんで消しゴムなんかにドキドキするのだろうか。
良く分からない。
しかし、「良く分からない」というのも恋がはらむ事実の一種だ。
だから何もおかしなことではない。

カワイちゃんは、買ったばかりの消しゴムとイケメくんのための漫画本を鞄に入れた。
「私が持ってていいよね?」
ブサイくんに聞いた。
「‥‥あ、あぁ」
ブサイくんは虫の息だ。
きっと、実感しているのだろう。
「ピーチ姫を拐われたマリオの気持ちはこんなに辛いものだったのか。
そりゃ、クリボーを踏み潰す勢いだ」と。

 

ブサイくんとカワイちゃんの後ろに並んでいたキレイさんは、やはり、塾があると言って早々に帰っていった。
残された二人。
ブサイくんとカワイちゃん。
いや、もはや、二人と一個。
ブサイくんとカワイちゃんとカワイちゃんの鞄の中の消しゴム。
「どうする?もう少し、ぶらぶらする?」
カワイちゃんが言う。
虫の息だったブサイくんだが、「俺は…いや、俺が、消しゴムの事を守らなければ!!!」という正義感に急に突き動かされて、すごい勢いで「う、うん!もう少し、ぶらぶらしよう!!」と言う。
正義感とは、いつだってご都合主義なものである。

彼は思っている。
「ぶらぶらしているうちに、何とかして、消しゴムを頂けないだろうか」

 

そうそう。
ブサイくんはこの時点で消しゴムに名前を付けていたけれど、センスの欠片も無い名前だったから、それは秘密にしておく。
だからと言ってレディをいつまでも「消しゴム」と呼ぶわけにもいかないから、便宜上、こう呼ぶことにしよう。
「マリー」と。

 

 

「マリー」-10-
2013.6.17


シード 消しゴム レーダー S-1000

マリー 10
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